著作物の引用について

著者:【弁理士】坂根 剛

※こちらの情報は2021年4月時点のものです

コロナが騒がれ始めてから1年が経過しました。ワクチンの接種も始まり、わずかに出口が見えてきたような気もしますが、日本では、今年に入って再び緊急事態宣言が発令されました。文化の面でもコロナの影響は大きいです。新しい映画の公開が激減し、映画界は空白の時代になっています。しかし、2021年の春から秋にかけては、人気作品の公開が控えているようです。巣ごもり生活が長く続きますので、映画などの娯楽文化の復活を期待します。さて、今回は、著作物の引用について説明します。

著作権法上、原則は、他人の著作物を無断で使用することはできません。しかし、著作権法では著作物の利用についていくつかの例外規定が設けられています。その一つが、論文などの文章の中で他人の文章などを利用する「引用」です。著作権法第32条には、引用について以下のように規定されています。

「公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。」

引用の条件

著作権法上の引用と認められるためには、いくつかの注意すべき点があります。例えば、量的な面と質的な面において、自己の文章と引用部分との間の主従関係が明確となっている必要があります。自己の文章に、他人の長文を引用部分として利用し、主従関係が成り立たなくなる場合には、「引用」とは言えなくなります。また、引用部分がカギ括弧で括られているなどの方法により、主の部分と引用されている部分が区別されている必要があります。また、引用の必要性があるかなど、引用の目的が正当な範囲内であることが条件となります。さらには、引用部分の出典を明らかにすること、引用部分を無断で改変していないことなどが条件となります。

引用と転載

上述したように、注意すべき点をクリアすることにより、自分の論文などに他人の文章などを引用することができます。著作権法第32条の「引用」に該当する限りにおいては、著作権者の承諾を得ることなく著作物を引用することができます。これに対して、転載は著作権者の許諾が必要となります。転載は、自己の著作物の従たる範囲を超えて他人の著作物を利用することです。例えば、他人の論文などを主として掲載するようなケースです。

まとめ

論文、刊行物などの出版物において他人の著作物を利用するときには、著作権法上の引用に該当するかどうかをチェックしましょう。著作権法上の引用に該当すれば出典を明示した上で、掲載可能となります。なお、本稿においても初めの段落で著作権法第32条の条文を引用をしています。これも著作権法上の引用でしょうか…?著作権法第13条第1号において、憲法その他の法令は、著作者の権利の目的とすることはできないと規定されています。したがって、法文については引用の条件とは関係なく自由に利用することができます。