海外で商標権を取得する方法

著者:【弁理士】大上 寛

※こちらの情報は2018年8月時点のものです

 皆様こんにちは! 弁理士の大上です。
 「残暑お見舞い申し上げます」。暑い日がつづきますね!
 夜中のエアコンつけっぱなしは身体によくないようですが、なんとも我慢できない日々がもう少しつづきそうです。
 弊所オフィスではエアコンの設定温度はそれほど低くなく、扇風機を併用しております。この扇風機は、話題の『DCモーター』の搭載によりとても静かで、「そよ風」モードもついています。これが気持ちいい! ぜひお試しください(笑)!

 さて、今回は外国(日本以外)での商標権の取得についてのお話です。海外展開のご参考にしていただきますと幸いです。

外国で商標権を取得する理由とは?

 基本的に、商標権は各国で独立した権利です。したがって、日本の商標権を取得していたとしても、中国や韓国などの外国で商標権を取得していなければ、当該外国において商標権侵害を訴えることができません。このため外国でも個別に商標権を取得する必要が出てきます。

 以下はフィクションです。

 日本の老舗の和菓子屋さんが、日本で『商標A』について『和菓子』を指定する商標権を有していたとします。
 『商標A』は日本では全国的に著名であり、外国人観光客のお土産として大変人気を博しています。家族経営の老舗で規模が小さく、長年実直な経営を続けてきましたが、人員の関係もありブランド保護については、なかなか手が回らない状況でした。
 ただし、日本では従来より商標権を取得していたため、特段気にかけることもなく、営業を続けていました。近年の外国人旅行者の急増を契機に空港店舗での販売も開始したところ、売上が急増しました。大規模な空港店舗なので、知的財産の監視も行き届き、第三者の模倣品の販売もされる可能性が低いと考え、特段心配をしていませんでした。

 その後、数カ月ほどして、「この前海外旅行行ったときに『商標A』を付した『お菓子』を見たよ! 海外進出頑張ってるね!」と知人から連絡が入りました。
 「え? 海外展開していないんだけど…」。ということで調べたところ、確かに海外で販売されており、ブログで紹介されているものもありました。
 さらに調べたところ、類似の商標が中国、韓国、タイ、台湾、など、多くの国で出願され、一部の国では登録されたということが判明しました。

  第三者に先取りされてしまったのです。
 こうなると、当該国において、後出しで出願し商標権を取得することは難しく、また、当該国において商標権が存在しないため、当該国での『商標A』の製造販売に対する権利行使が難しくなり、指を咥えて見るしかない状況になってしまいます。
 海外で粗悪品が販売されると、当該国での評判が落ち日本の空港でお土産として購入する外国人旅行者も次第に減ってしまいました…。

外国で商標権を取得する方法

 商標権を取りたい国の官庁に直接出願する方法(直接出願)と、WIPO国際事務局に出願する方法(マドプロ出願)と、大きく二種類の方法があります。

直接出願

 権利取得を希望する国が、一、二か国といった数が少ない場合には、直接出願をするのがよいでしょう。

この場合、現地の代理事務所(弁理士事務所、弁護士事務所)に依頼をして、出願手続きを代理してもらいます。この現地の代理事務所への依頼は、日本の特許商標事務所を介して行うことがいいでしょう。
 日本の特許商標事務所であれば、外国の代理事務所への依頼や手数料支払いも任せることができ、出願から登録まで一括してお願いすることができます。この場合、外国の代理事務所への手数料に加え、日本の特許商標事務所への手数料も必要となりますが、手続きの手間や、的確な権利化を考慮すれば、日本の特許商標事務所にお願いしたほうが理にかないます。

例えば、現在日本の商標出願をお願いしている事務所があれば、その事務所にアメリカ、中国でも商標権を取りたい、と相談すれば、対応をしてくれると思います。

 費用は、出願をする国によって大きく違いますが、一か国につき、おおよそ15万円〜25万円(一区分の出願から登録までの費用[権利期間10年])と考えていただくと安心です。

国際商標登録出願

 複数国に同時に出願をする場合には、マドリッド協定議定書(通称「マドプロ」)による出願がオススメです。

 「マドプロ」の締約国は98カ国(2017年)であり、その中から 権利を取得したい国(指定国)を指定することにより、複数国に同時に出願するのと同等の効果を得ることができます。

 この出願は、日本特許庁(本国官庁)にすることができるので、外国の代理事務所に出願手続きをお願いする必要がなく、この外国の代理事務所に支払うコストを削減することができます。
 つまり、日本の特許商標事務所にお願いをすれば、日本の特許商標事務所だけで手続きを完了することができます。ただし、外国で拒絶された場合には、現地の代理事務所に対応をお願いすることが必要になってきます。

 費用は、指定する国によって大きく違ってきますが、現地代理人の費用を削減することができるため、一カ国あたりでみると、上記の直接出願と比較して安く抑えることができるでしょう。

まとめ

 いかがでしたでしょうか。外国人観光客の急増や東京オリンピックの開催など、今後も日本の製品やサービスのブランドが世界に紹介され、認知される機会はますます増えるものと考えます。

 外国で商標権が先取りされてしまうと、海外展開の機会の喪失や、国内でのインバウンド需要の低下などといった悪影響を受ける可能性が高まります。

 自社の大切な商標・ブランドは、日本だけでなく外国でもしっかりと守る必要があると思います。ぜひご検討ください!