生前の遺産分割協議書の効力

著者:【弁護士】吉川 法生

※こちらの情報は2018年6月時点のものです

Q 相談内容

 父の面倒を見ている兄から、兄弟全員で父の遺産の分け方を決めておきたい、と言われました。兄弟は、弟の私と姉の3人兄弟です。
 姉と私が兄の言う遺産分割の話合いの内容を書面にしておけば有効なのでしょうか。

A 回答

 親(本件では父親)が亡くなる前に、推定相続人(相続が始まった場合に相続人なるはずの者)が相続の放棄をすることは、民法上、認められていません。
親が亡くなったあとであれば、相続人は相続が開始し自分がその相続人になったことを知ってから3カ月以内であれば、家庭裁判所に対し、相続の放棄を申立てることによって遺産相続をしないという選択ができます。

 しかし、これはあくまでも親が亡くなったあとのことで、仮に、生前に「相続を放棄します」という趣旨の書面を作成、その後に親が亡くなったとしても、その書面が存在することで放棄の効果は生じません。

 それでは、親の生前に推定相続人全員で協議してその内容を合意書にしておけばよいのかといいますと、このような合意書も、相続の開始によって、当然に遺産分割協議書としての効力が認められることにはなりません。
それは、被相続人の死亡前には、分割すべき対象となる財産を処分する権利は被相続人のみにあるのであって推定相続人にはないわけですから、そのような約束をしても法的な効力が生じることにならないからです。

 推定相続人には、被相続人が死亡したときに相続できるであろうという期待権のようなものがあるにすぎず、たとえ子であろうと、親の財産について生前に将来の処分について口出しはできないのです。

 したがいまして、生前にどんなにきちんとした書面を作成しておいたとしても効力はなく、相続開始後に、合意した取決めどおりに自分の権利を確保できることにはなりません。

 本件の場合、生前に親から財産の贈与を受けるなり、死因贈与契約を結ぶという方法も考えられますが、贈与税等の負担の問題がでてきます。

 そこで、遺言を活用することが考えられます。お父さんの意思が明確であれば、お父さんが遺言書でどの遺産を誰に取得させるかなどの分割の方法や相続分の割合を指定することができます。
遺言書については、以前、このコーナーでご紹介しています。可能でしたら、公正証書遺言をお勧めします。