年次有給休暇義務化について

著者:【社会保険労務士】米原 義博

我が国の労働環境は、「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」「育児や介護との両立等、働く方のニーズの多様化」などの状況に直面しています。この課題の解決のため、働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることが求められています。そこで具体的な「働き方改革」の一環として働き方改革関連法による改正のうちのひとつ「年5日の年次有給休暇の取得義務」が2019年4月1日に全面的に施行されました。この「年次有給休暇の取得義務」については、大企業、中小企業など企業規模にかかわらず全企業を対象として一律に適用されております。
厚生労働省発表の「令和2年就労条件総合調査 結果の概況」(令和2年10月30日公表)によると、年次有給休暇の取得率は2年連続で50%を超えたものの、政府は令和2年までの目標として取得率70%を掲げており、達成には至っていないのが現状なこともあり、ここで改めてご案内させていただきます。

年次有給休暇に関する基礎知識

■年次有給休暇の発生要件と付与日数
使用者は、労働者が雇入れの日から6か月間継続勤務し、その6か月間の全労働日の8割以上を出勤した場合には、原則として10日の年次有給休暇を与えなければなりません。

パートタイム労働者など、所定労働日が少ない労働者に対する付与日数については、所定労働日数に応じて比例付与されます。比例付与の対象となるものは、所定労働時間が週30時間未満で、かつ、週所定労働日数が4日以下または年間の所定労働日数が216日以下の労働者です。

年次有給休暇義務化の対象者

年次有給休暇が10日以上付与される労働者が対象になります。(管理監督者、有期雇用労働者も含まれます)
週所定労働時間が30時間未満の者は次の通りになります。
●週所定労働日数が4日→継続勤務3年6か月以上の者は全員対象
●週所定労働日数が3日→継続勤務5年6か月以上の者は全員対象
●週所定労働日数が2日→最大7日の付与のため対象外

年次有給休暇義務化の内容

使用者は、労働者ごとに、年次有給休暇を付与した日(基準日)から1年以内に5日について、取得時季を指定して年次有給休暇を取得させなければなりません。

会社によっては、入社と同時に年次有給休暇を10日付与する場合があります。入社後6か月経過前に10日の年次有給休暇を付与する場合は、付与した日を基準日として、基準日から1年以内に5日分については取得時季を指定して年次有給休暇を取得させなければなりません。したがって入社と同時に年次有給休暇を10日付与した場合は、入社日から1年以内に5日の年次有給休暇を取得させなければなりません。

時季指定の方法

使用者は、時季指定にあたっては、労働者の意見を聴取しなければなりません。また、できるだけ労働者の希望に沿った取得時季になるよう、聴取した意見を尊重するよう努めなければなりません。

※時季指定を要しない場合
既に5日以上の年次有給休暇を請求・取得している労働者に対しては、使用者による時季指定をする必要ななく、また、することもできません。つまり、「使用者による時季指定」、「労働者自らの請求・取得」、「計画年休」のいずれかの方法で労働者に年5日以上の年次有給休暇を取得させれば足りることになります。

年次有給休暇管理簿の作成

使用者は、時季(年次有給休暇を取得した日付)、日数及び基準日を労働者ごとに明らかにした年次有給休暇管理簿を作成し、当該年休を与えた期間中及び当該期間の満了後3年間保存しなければなりません。
年次有給休暇管理簿は労働者名簿または賃金台帳とあわせて調製することができます。また、必要な時にいつでも出力できる仕組みとした上で、システム上で管理することも差し支えありません。

就業規則への規定

休暇に関する事項は就業規則の絶対的必要記載事項であるため、使用者による年次有給休暇の時季指定を実施する場合は、時季指定の対象となる労働者の範囲及び時期指定の方法等について、就業規則に記載しなければなりません。

年5日の確実な取得のための方法

■使用者からの時季指定を行う
使用者からの時季指定は、基準日から1年以内の期間内に適時行うことになりますが、年5日の年次有給休暇を確実に取得するに当たっては、
●基準日から一定期間経過したタイミング(半年後など)で年次有給休暇の請求・取得日数が5日未満となっている労働者に対して、使用者から時季指定をする。
●過去の実績から見て年次有給休暇の取得日数が著しく少ない労働者に対しては、労働者が年間を通じて計画的に年次有給休暇を取得できるよう基準日に使用者から時季を指定する。

ことで、労働者からの年次有給休暇の請求を妨げず、かつ効率的な管理を行うことができます。

■年次有給休暇の計画的付与制度(計画年休)を活用する。
計画年休は、前もって計画的に休暇取得日を割り振るため、労働者はためらいを感じることなく年次有給休暇を取得することができます。計画的付与制度で取得した年次有給休暇も5日取得義務化の5日としてカウントされます。
●日数
付与日数から5日を除いた残りの日数を計画的付与の対象にできます。
●方式
①会社や事業場全体の休業による一斉付与方式
②班・グループ別の交替制付与方式
③年次有給休暇付与計画表による個人別付与方式

まとめ

今まで年次有給休暇取得に対しては、同僚への気兼ねや請求することへのためらい等の理由から、取得率が低調な現状にあり、年次有給休暇の取得促進が課題となっていました。今回の年次有給休暇取得義務化により行政の監督も厳しくなるものと思われます。労務管理等のご相談はTSCにお任せください。

※こちらの情報は2021年2月時点のものです