年次有給休暇のよくある質問等

著者:【社会保険労務士・日商簿記2級】稲見 光保

※ こちらの情報は2018年1月時点のものです

 事業主様からもっともよく受けるご質問やご相談内容の一つとして年次有給休暇(以下、単に「年休」とします)が挙げられます。今回はその中でも年間を通じ受けることの多いご相談について整理してご説明をいたします。

人手が足りない日に複数人が同時に休まれては困る

 お気持ちはよくわかります。ですが労働者の年休の「請求」とは、法律上当然に持っている権利について時季を指定する行為であり、会社側が時季変更権(事業の正常な運営を妨げる場合に時季を変更できる権利)を行使しない限り、その指定によって年休は成立するものと解されています。

 この時季変更権をめぐる判例では労働者ができる限り指定した時季に休暇を取得できるよう会社側に配慮を求めており、また代替者の確保が難しいという場合であっても勤務割を変更して代替者を確保することが客観的に可能であるにもかかわらず、そのための配慮をしなかった場合については、事業の正常な運営を妨げる場合には当たらないとされたケースもございます。

そこでどうしても人員が不足するような場合には年休を指定してきた従業員に対し、業務遂行に必要最低限の人数や代替要員の確保が不可能な事情を説明し、時季変更権の行使を受け入れられる人を慎重に選抜する等の配慮をすべきと考えられます。あわせてできるだけ指定した時季に休暇を取得できるよう人員体制の整備が必要と考えます。

その日の朝にいきなり年休申請されて困る

 こちらもよく聞く話です。当日の始業前までに申請すれば極力年休を与えるべき、といった意見もあると思いますが、就業規則で当日申請(あるいは事後速やかに申し出れば年休への振替)を認めているような場合を除き、必ずしも指定通りに与える必要はないと思います。

 前述の時季変更権ですが、特にパートタイマーが多くシフト制を採用しているようなケースでは始業時刻直前になっての代替要員の確保は実質的に困難ですし、これでは会社側が時季変更権を行使するか否かを判断することができません。もう一つはそもそも年休が本来、事前の申請により「労働日」(=原則、午前0時から24時間の歴日)単位で付与されるものであることから、午前0時を過ぎての申請は事後申請であるとも言えます。今後の運用としては就業規則上、原則的には認めないがやむを得ない場合に限り事後の振替を認める、とか、より働きやすい環境にするため時間単位年休の導入を検討するといった柔軟な対応が求められるかと思います。

年休取得時の割増賃金

 最後に年休取得時における割増賃金の考え方について。法における労働時間は実労働時間主義を採っているため、例えば半日休を取得し、これを含めた時間が1日8時間を超えていた、また年休を取得した時間を含めて1週40時間を超えていたとしても、実際の労働時間が法定労働時間を超えない限り割増賃金を支払う必要はありません。就業規則等で特段の定めがない限り、割増率を乗じる前の通常の時間単価分×超えた時間の賃金を支払えば足りることになります。

 また、年休を半休等で取得した日に残業が発生した場合は

  1. 割増賃金を乗じる前の通常の時間単位分×年休の半休時間分
  2. 割増賃金を乗じる前の通常の時間単位分×実働8時間分
  3. 割増賃金を乗じる前の通常の時間単位分×割増率(深夜休日以外は1.25等)×残業時間分

となります。
※2は変形労働時間制を加味しておりません。