「労働契約書」のあれこれ

著者:【社会保険労務士】小林 研矢

※こちらの情報は2018年2月時点のものです

 今年度もいよいよ残りわずかとなり、人事担当者にとって新入社員の入社が集中する新年度に向け、慌ただしくなる時期になってきました。労働保険や社会保険の手続き、給与や税務処理業務、契約書の書類作成等…、様々な業務が押し寄せてきます。

そこで今回はその中の一つ「労働契約書」の作成と注意点について解説します。

そもそも「労働契約書」とは?

 働く人にとって実際にどのような契約内容に基づき仕事をするかは当然ながら大変重要なことです。しかしながら採用された側からは「求人票の内容と条件が違う」「面接のときにそんな話はなかった」等ということや、企業側からは「面接のときに約束したから採用した」等、実際に仕事を始めてから両者による話の食い違いでトラブルが発生する恐れがあります。

そこで両者が合意した契約内容を明確にする為に労働条件を書面にて明示することが義務付けられています(労働基準法15条及び同施行規則第5条)。

書面については2通作成し、両者で1通ずつ保管する「労働契約書」に対して、企業側が労働条件を通知する「労働条件通知書」というものもあります。必要な労働条件が明示されていればどちらでも特に問題はありませんが、合意を証明するものとして「労働契約書」を取り交わすことが望ましいでしょう。

「雇用契約書」との違い

 「労働契約書」と「雇用契約書」、似たような意味を持つ名称ですが、実はその目的はそれぞれの法律に基づいて異なっています。労働契約書は労働契約法を根拠としており、前述した通り法律上義務付けられている「労働条件の明示」に対して労使間の合意を証明する為の書面です。

一方、雇用契約書は民法を根拠としており、「労務の提供」と「報酬の支払い」に対して両者の合意(民法623条)を証明する為の書面で、実は法律上必ずしも作成が義務付けられているものではありません。

しかし、実態は雇用契約書だけで書面を取り交わされていることも多く、その場合、必要な労働条件が雇用契約書に明示されていれば、適法に労働条件が明示されたことになります。

「絶対的明示事項」と「相対的明示事項」

 さて、ここまで労働条件の明示について触れてきましたが、明示する内容については、必ず明示する必要がある事項「絶対的明示事項【下記参照】」と退職手当や賞与等、“定めがあれば”必ず明示する必要がある「相対的明示事項」と大きく二つに分かれます。尚、相対的明示事項については必ならずしも書面で明示する必要はなく、口頭による明示でも良いとされています。

【絶対的明示事項】

  1. 労働契約の期間に関する事項
  2. 期間の定めがある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
  3. 就業の場所、従事する業務に関する事項
  4. 始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交代制勤務をさせる場合は就業時転換に関する事項
  5. 賃金の決定、計算・支払方法、賃金の締切り・支払の時期、昇給に関する事項
    ※昇給については口頭による明示でも良い。
  6. 退職に関する事項(解雇の事由を含む)

就業規則との優位関係

  うっかり就業規則の変更を忘れていた…。このような時に労働契約書と就業規則の内容が異なるような場合、原則は就業規則よりも労働契約書で定められた内容が優先されます。

しかし、労働契約法においては、就業規則で定める基準に達しない労働契約は無効となり、無効になった部分は就業規則で定める基準による(労働契約法12条)とされています。
例えば労働契約書に休憩45分と定めていたとしても就業規則に休憩1時間と定めていた場合、45分は無効となり、1時間が適用されるということです。

以上のことにより、労働契約書は労使間のトラブルを少しでも未然に防ぐ為の重要な書類といえます。正しい内容で作成することはもちろんのこと、労使間で誤解が生じないように作成に努めることが必要でしょう。