パワーハラスメント対策について

著者:【社会保険労務士】米原 義博

※こちらの情報は2018年7月時点のものです

 パワーハラスメントは、個人間の問題では収まらず職場全体に重大な影響を及ぼすことがあります。つまり、パワーハラスメントをした者、された者という人材を失う可能性があるばかりでなく、職場環境を悪化させてしまいます。職場環境の悪化は、社員の士気を削ぎ、仕事の能率を下げることになります。

 また、職場環境の悪化は対外的に企業評価を下げ、さらなる人的資源の流出にもなりかねません。都道府県労働局等に寄せられている企業と労働者の紛争に関する相談で、「いじめ・嫌がらせ」に関するものは近年急増していることから、パワーハラスメント対策は急務と言えます。

パワーハラスメントとは

 同一の職場で働く者に対し、職務上の地位や権限、人間関係などの職場内の優位性を背景として、適正な業務範囲をこえて、継続的に、精神的・身体的に苦痛を与えて人格と尊厳を侵害すること、または就労環境を悪化させたり雇用不安を与えることを言います。

具体的には

  1. 暴行や傷害(身体的な攻撃)
  2. 脅迫・名誉棄損・侮辱(精神的な攻撃)
  3. 無視や仲間はずし(人間関係からの切り離し・隔離)
  4. 遂行不可能なことの強制や仕事の妨害(過大な要求)
  5. 程度の低い仕事を命じたり仕事を与えない(過小な要求)
  6. 私的なことに過度に立ち入る(個の侵害)。

上下関係のない同僚間や部下から上司への行為も含むものとされます。

パワーハラスメント対策について

~予防するために~

①企業トップのメッセージを伝える

 企業トップのメッセージとして、パワーハラスメントは全従業員が取り組む重要な会社の課題であることを明確に発信する。
 組織の方針が明確になれば、パワーハラスメントを受けた従業員やその周囲の従業員も、問題点の指摘や解消に関して発言がしやすくなり、その結果、取組の効果がより期待できます。

②ルールを決める

 就業規則その他の職場の服務規律等を定めた文書で、パワーハラスメント行為を行っていた者については、懲戒規定等に基づき厳正に対処する旨を定めます。罰則規定の適用条件や処分内容、また、相談者の不利益な取扱いの禁止などを明確にしておきます。

 就業規則を変更した場合は、その内容の周知が義務付けられていますので、従業員への説明会や文書の配布などを実施します。

③社内アンケートなどで実態を把握する

 職場のパワーハラスメント防止対策を効果的に進められるように、職場の実態を把握するためのアンケート調査を早い段階で実施します。
 アンケート調査は、パワーハラスメントの有無や従業員の意識の把握に加え、パワーハラスメントについて職場で話題にしたり、働きやすい職場環境づくりについて考える貴重な機会にもなります。
 アンケートでの実態把握は、対象者が偏ることがないようにします。
 より正確な実態把握や回収率向上のために、匿名での実施が効果的です。

④教育を行う

 教育のための研修は、可能な限り全員が受講し、かつ定期的に実施することが重要です。中途入社の従業員にも入社時に研修や説明を行うなど、漏れなく、全員が受講できるようにします。
 管理監督者と一般従業員に分けた階層別研修の実施が効果的です。研修内容には、トップのメッセージ内容を含めるとともに、会社のルールの内容、取組の内容や具体的な事例を加えると効果的です。

⑤社内での周知・啓蒙

 パワーハラスメントの防止に向け、組織の方針、ルールなどとともに、相談窓口やその他の取組について周知することが必要です。
 周知を確実なものにするためには、各種取組を目に見える形で実施し、従業員に、会社が真剣に取り組んでいることを実感してもらうことが必要です。
 そのためにも、トップのメッセージやルール、パワーハラスメント防止対策の取組意義などを従業員にしっかり伝え、理解してもらうことが重要です。

~解決するために~

①相談や解決の場を提供する

 従業員が相談できるように相談窓口を設置します。相談しやすくするために、相談者の秘密が守られることや不利益な取り扱いを受けないこと、相談窓口でどのような対応をするかを明確にしておきます。

②再発防止のための取組

 再発防止策は予防策と表裏一体です。予防策に継続的に取り組むことが再発防止につながります。取組内容の定期的検証・見直しを行うことで、より効果的な再発防止策の策定、実施に取り組みます。

まとめ

 以上のように、企業には職場環境を整備し、従業員を適切に監督することが法律上求められています。この法的義務を果たすため、各企業は対策を講じていくことになります。
 パワハラ予防のためには、労使協定の締結、社内アンケートの実施、研修の実施、組織方針についての周知や啓発等が行われています。パワハラ事案の解決や再発防止に向けて窓口を設置することも大変有効です。