労働時間について

著者:【社会保険労務士】松田 英之

※こちらの情報は2018年12月時点のものです

 労働時間は、労働基準法の中でも労働者保護の観点から非常に重要性が高く、労働者にとっても関心の高いところです。
 昨今議論されております働き方改革においても、労働時間は非常に重要な争点とされており、企業の生産性や労働者のワークライフバランスを考える上で、避けられない課題となっております。

 そこで今回は、そもそも労働時間とは何なのか?や事業活動における様々なケースにおいて、労働時間であるか否かをどのように判断すべきかについてご説明させていただきます。

そもそも労働時間とは?

 労働基準法では、特例事業場(常時使用する労働者が10人未満の商業や飲食店など)を除き、1週間について40時間、1日について8時間を労働時間の上限としています。

 労働者が会社に拘束される時間(勤務開始から終了までの時間)を『拘束時間』といい、拘束時間から休憩時間を除いた時間が『労働時間』となります。

 労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令によって労働している時間をいい、労働時間に該当するか否かは、労働者が「使用者の指揮監督下に置かれている」と評価できるか否かにより客観的に判断されるものであって、労働契約、就業規則等の内容によって決定されるものではありません。
 使用者の指揮監督下において仕事の準備や整理を行う時間、仕事の途中で次の仕事を待って待機している時間(いわゆる手待ち時間)も労働時間に含まれます。

 これに対し、休憩時間とは、労働者が使用者の指揮監督から離脱し完全に労働から解放され、自由に利用できる時間でなければなりません。
 つまり、労働時間であるか否かは、労働者が使用者の指揮監督下にあるかどうかで判断されることとなります。

 それでは、ここからは具体的なケースごとに、どのような場合が労働時間となるのかについて説明していきます。

勤務開始前の時間

 9時勤務開始の労働者が、8時に出社し仕事の準備や整理を行った場合、この時間は労働時間とみなされるのでしょうか?

 労働時間であるか否かの判断は、使用者の指揮監督下にあったかどうかが判断の基準となりますので、この労働者が使用者からの指示なく、自らの意思により仕事の整理等を行っている場合は労働時間とはみなされません。
 しかし、使用者らの指示により業務開始前からの準備等が義務付けられている場合には労働時間となります。使用者からの指示は明示、黙示を問いません。

 また、勤務開始前の朝礼やミーティング、体操への参加が、義務的に行われている場合は労働時間とみなされますが、参加が自由であり、不参加に何らのペナルティーがない場合のみ労働時間とはみなされないことになります。

 勤務開始前もしくは終了後に労働者が行う清掃についても前記と同じ考え方で労働時間となるのかどうかを判断することとなります。

休憩時間中の電話当番の時間

 昼休みに、来客・電話等対応のためにローテーションなどで当番を置くことがありますが、この当番の時間は労働時間となり、当番となった労働者には別に休憩時間を付与する必要があります。

そもそも休憩時間は、自由が保障された時間でなければなりませんので、来客時もしくは受電時の対応が義務付けられている時間は、使用者の指揮監督下にあると判断されますので、労働時間とみなされます。

移動時間

 通勤時間はもちろん労働時間ではありませんが、直行の場合は、最初の直行先に到着した時間からが労働時間、直帰の場合は、最後の訪問先を出た時間までが労働時間となります。

また、拘束時間中に電車や飛行機などで移動し、移動中はまったく自由に時間を使える場合は、労働時間とはみなされません。

教育訓練時間

 教育訓練に参加することが義務付けられている場合は、労働時間となります。自由参加であれば労働時間とはなりません。しかしながら、参加しなければ人事考課の査定で不利になる場合などは、事実上の強制とみなされ、労働時間であるとみなされます。

健康診断の時間

 会社は労働者に健康診断を受診させる義務がありますが、一般健康診断の時間は労働時間ではありません。しかし、じん肺健康診断、有機溶剤健康診断など危険有害な作業を行う場合に義務付けられている特殊健康診断の時間は労働時間となり賃金の支払い対象となります。

 一般健康診断の時間については労働時間ではないため、使用者に対して賃金の支払義務はありませんが、円滑な受診を考えれば、受診に要した時間の賃金を使用者が支払うことが望ましいとされています。

 日々の会員企業様への訪問の際に事業主様とお話ししていると、労働時間について誤った解釈をしてしまっていたがために、意図しない長時間労働を労働者に課してしまっていたといったケースや意図しない未払い残業代を発生させてしまっていたといったケースもお聞きします。

 労働時間を適切に管理することは、労働者の健康を管理することにもなります。今一度、労働時間が適切に管理されているのかどうか見直してみてはいかがでしょうか?