音楽教室・JASRAC 著作権に関する論争

著者:【弁理士】坂根 剛

※こちらの情報は2020年6月時点のものです

 コロナウィルスの感染拡大が続いています。感染の中心は、中国からヨーロッパ、そして、アメリカへと移り変わっているようです。日本でも感染数、感染エリアが少しずつ拡大し、4月7日には7都府県を対象に緊急事態宣言が発動されました。経済、文化、教育、スポーツ、娯楽、あらゆる活動が制約を受け、先の見えない状態が続いています。

さて、話はがらっと変わりますが、今月は、音楽教室とJASRACとの間での著作権に関する論争に触れます。

JASRAC

JASRAC(一般社団法人日本音楽著作権協会)は、日本国内の音楽に関わる著作権を管理している団体です。

JASRACは、音楽の著作権の使用料を利用者から徴収する手続きと、徴収した使用料を、作詞者、作曲者、音楽出版者などの著作権者に分配する手続きを行っています。楽曲の演奏を行うイベントの主催団体、BGMを店内で使用する飲食店などは、JASRACに対して著作権料の支払いを行う仕組みとなっています。

音楽教室での演奏

2017年頃から、JASRACは音楽教室で演奏される楽曲に対しても著作権料を徴収する方針を公にしました。

著作権法第22条には、演奏権について次のように規定されています。

(上演権及び演奏権)
第22条 著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として(以下「公に」という。)上演し、又は演奏する権利を専有する。

つまり、著作権者の許諾を得ないで「公衆」に対して「聞かせることを目的として」楽曲の演奏を行うと、演奏権に抵触することとなります。「公衆」の用語は、著作権法上は、「不特定の人」または「特定多数の人」を意味します。しかし、音楽教室で楽曲の演奏をすることが「公衆」に対する演奏に該当するのか疑問があります。

音楽教室側は「音楽教育を守る会」を結成し、JASRACの方針に対抗しました。そして、音楽教室側はJASRACに著作権徴収権限がないことの確認を求めた訴訟を起こしました。

裁判所での争い

2020年2月28日、東京地裁の判決があり、音楽教室の訴えが棄却されました。判決では、音楽教室内での演奏の主体は音楽教室運営会社であり、生徒は不特定多数であるため音楽教室内での演奏は「公衆」に対するものであると判断されました。

音楽教室側は、3月5日に判決を不服として知的財産高等裁判所に控訴しました。したがって、この論争はまだまだ続くことになります。

まとめ

裁判所において、今後のどのような判断がなされるかは分かりません。

世間でこの問題が大きな話題になった理由は、音楽教室での演奏に対して著作権料を徴収するという考え方が、一般の人々の感覚から大きくかけ離れていることだと思われます。実際、作曲者の中には「子供に音楽を教える音楽教室で著作権料を徴収して欲しくない」という意見を持つ人もいます。法律が文言で解釈されることは正しいことですが、第22条の演奏権は少なくとも法律制定時において、音楽教室での演奏にも及ぶことを予定していなかったと思います。