相続法の改正 その4

著者:【弁護士】吉川 法生

※こちらの情報は2019年9月時点のものです

今回が相続法改正に関する最終回で、遺留分に関する改正点、特別寄与制度です。

(8)遺留分減殺請求権を遺留分侵害額請求権として金銭債権化し、また、遺留分額算定の基礎となる財産の範囲を変更したこと

①遺留分侵害額請求権

従前、遺留分減額請求権を行使すると、減額の対象となった目的物の所有権は遺留分権利者に戻っていました。
(例えば、不動産であれば共有持分が戻り、持分移転登記手続を求めることになります)

今回の改正では、これを金銭債権化し、「遺留分減額請求権」という表現が、「遺留分侵害額請求権」と改められました。これにより、遺留分権利者は、遺留分侵害額に相当する金銭を請求できることになりました。
他方、受遺者又は受贈者が金銭を準備できない場合があるのではないかということから、受遺者又は受贈者の申出により、裁判所が金銭による返還に期限の許与を与えることができるとされました。

②遺留分算定の基礎となる財産の範囲の変更

従前、遺留分算定の基礎となる財産につきましては、相続人に対する贈与は相続開始1年間にしたものは全て、それより前にした贈与は特別受益に該当するものとされていましたが、今回の改正により、相続人に対する贈与については相続開始前の10年間にされたものに限り、かつ、価額につき婚姻もしくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限るとされました。

(9)相続人以外の親族が被相続人の療養看護等に尽くした場合における特別寄与制度を創設したこと

従前、寄与分は相続人にのみ認められていましたので、相続人以外の者が被相続人の事業に関する労務の提供や療養看護等に努めて被相続人の財産の維持又は増加に貢献をしても、遺産の分配を請求することはできませんでした。一方で、相続人であれば何らの寄与行為を行わなかった者も遺産の分配を受けられるため、公平を欠くのではないかとの意見も多くありました。

そこで、このような相続人以外の者の貢献を考慮し、相続における実質的公平を図る観点から、寄与行為をした相続人以外の者にも一定の財産を取得させる制度が設けられることとなりました。

具体的には、被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続人、相続の放棄をした者、及び民法891条(相続人の欠格事由)の規定に該当し又は廃除によってその相続権を失った者を除く。以下「特別寄与者」という。)は、相続の開始後、相続人に対し、寄与に応じた額の金銭の支払を請求することができるものとされました。

特別寄与料を請求し得る者は、被相続人の親族ですが、親族とは、6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族です。したがいまして、内縁の妻などは除かれましたが、この点は法制審議会の最終段階まで見解が対立したようです。