意匠法の改正

著者:【弁理士】大上 寛

※こちらの情報は2019年7月時点のものです

 令和に改元してから早二カ月ですね。そろそろ梅雨も開けて本格的な夏が近づいてまいりました。ラグビーワールドカップも段々と近づいてきました。一躍注目を浴びる選手が出て来ることでしょう。楽しみですね。来年はいよいよ東京オリンピックです。また、IR法案(いわゆるカジノ法案)も新しい動きが出てきそうです。ビッグイベント目白押しですね。

 さて、意匠法の改正についてお話をさせていただきます。

意匠権とは?

意匠権は、いわゆる物品のデザインについての知的財産権です。

自動車のデザイン、洋服のデザイン、スニーカーのデザイン、ペットボトル容器のデザイン、キッチンカウンターのデザイン、トイレ便器のデザイン、ボールペンのデザイン、腕時計のデザイン、家具のデザイン、などなど、ほとんどの物品(工業生産品)を対象とするものです。

例えば、「冷蔵庫」「洗濯機」といった同一物品でも、各メーカーのデザインは様々で、工夫を凝らして特徴的なものとなっていますよね。これは、各社が意匠権を有しており、互いに抵触しない関係が成立しているということでもあります。

改正の主なポイント

1.権利期間の長期化

現行法では、意匠権の存続期間(有効期間)は、登録から最長で「20年」ですが、「25年」に延長されます。5年も長く意匠権を保護できることになります。

「デザインファースト」というような言葉があるように、デザインを大きな付加価値と位置づけで、「高くても売れる!」ということは、昨今においてよくあることです。デザイナー・開発・製造が一体となって良いものを作る、というのはどのメーカーも実践していることだと思います。

思いの詰まったデザインがより長期間保護されることになれば、大きな利益を長期間もたらしてくれます。

意匠は、「似ている」「似ていない」という判断が必要になりますが、目に見えてわかりやすいので、模倣品の摘発もしやすいものとなります。特に、水際(税関)での差し止めなどでも有効ですので、日本で意匠権を取得することで、模倣品・粗悪品の輸入を効果的に防止することができます。

2.登録対象の拡張

現行法では、建築物なのどの不動産は「物品」ではなく、登録の対象とはなりませんでした。したがって、特徴のある店舗の外観デザインなども、基本的には登録ができないものでありました。せっかくデザインされたものが模倣されてしまうリスクが高かったのです。

改正後は、「空間のデザイン」として、これら建築物の外観や、内装についても、権利保護との対象となることが予定されています。

出願の方法や、権利の有効活用方法などにおいては、状況を見ながら検討をしていく必要があると思います。

3.関連意匠出願制度の拡充

現行法では、ある「意匠」に「類似する意匠」を、「関連意匠」として権利化することができますが、「関連意匠にのみ類似する意匠」を、さらに「関連意匠」として権利化することは認められていません。このため、デザインコンセプトが共通する意匠の範囲を広げるような保護が難しい状況でした。

改正法では、「関連意匠にのみ類似する意匠」を「関連意匠」として権利化することが可能となるため、いわゆる、関連意匠の無限連鎖というのものが可能となり、デザインコンセプトをより広く確実に保護することが可能となります。

4.複数意匠を一つの願書で出願可能

現行法では、願書には権利保護を求める一つの意匠(基本的に六面図で表現)のみ含めることができました。

改正法では、複数の意匠を一括で出願できることになります。ただし、願書に含まれる各意匠について、それぞれ個別に審査がなされ、権利が発生することが予定されますので、実際のところのメリットについては、状況を見ながら検討をしていく必要があると思います。

むすび

現時点で改正法の施行日は未定ですが、出願人にとって使いやすく、しっかりと権利保護が図られる制度設計がなされることが期待されます。