「個人請負」と業務上の事故の責任について

著者:【弁護士】高下 謹壱

※こちらの情報は2018年9月時点のものです

 今回は、請負とか業務委託契約で個人や業者を利用した場合に起こる法律問題を取り上げます。

業務従事中の事故の賠償責任

 会社が独立した個人に「業務委託契約」との契約名称で業務に従事実行させた場合に、その個人事業者が業務中、事故の過失で事故を起こし、委託会社に損害を与えたケースです。
 具体的には、自動車とか物品の運送を個人に委託する場合に当該個人が運送中に道路交通法上の不注意(過失)で事故を起こし、運送車両等を毀損して損害を与えた場合です。

雇用契約の場合

 この場合、雇用契約の場合であると、雇用契約遂行上、通常の不注意による損害賠償を労働者個人に請求してもだめという法律論が一般です。但し、故意か重過失の場合は例外とされています。

業務委託契約の場合

 逆に業務委託契約の場合、委託者と受託者は対等な当事者の商取引ですので、労働者性に基づく特別の保護という考え方はなく、契約に基づく委託業務を過失によって損害を与えた場合は通常は債務不履行責任を負わされます。

 実際に業務を処理させる契約が雇用契約か業務委託契約かは契約の名称ではなく、実体によるとされ、その基準として、「従属性」「独立性」の有無を判断する一定の判断基準が示されています。これらの基準に照らして、名称が「業務委託契約」であっても「雇用」と判断されれば前記の労働者保護の考え方が適用されて業務従事者の責任は軽減されます。
 しかしこの基準をあてはめても最終的に業務委託契約と判断された場合、原則として業務従事者に過失ある場合は、物品を目的地まで毀損することなく運送するという事業者の義務に違反したものとして損害賠償責任を負うのが原則であると言わざるを得ません。

業務委託契約の場合、責任が否定される場合

 しかし、今回の原稿は、このような場合に個人の業務受託者の責任を常に追及できるのか、という問題です。受託者が法人である場合は、営利を目的とするものですから、継続性、業務性、営利性が明白ですので、前記の一般論を適用しても問題ないといえます。
 法人として営利業務として業務受託行為を業としている場合、営利性の反面、業務上の利益を得ていることの対価として損害賠償のリスクも負い、賠償保険によるリスク負担をすることも可能だからです。

 しかし、個人で業務受託している場合、必ずしも営利性があるとはいえず、万が一の事故による損害賠償負担のリスクを個人に負わせることは必ずしも合理的とはいえません。
 個人の受託業務が高度、専門的業務であれば、その専門性を引き受ける以上、不注意による損害のリスクを引き受けるべきともいえますが、そうでない場合、たとえば、個人で自動車を運転して自動車や物品を運送すると業務は高度な専門性ある業務とは言えないと考えられます。

 また、業務受託者が個人の場合、一般的に損害賠償を負担するだけの支払い能力があるとはいえず、保険加入するという意識も乏しく、受託業務が高度な専門的業務でない場合は、受託者個人の業務上の過失は雇用契約における業務委託者自身の過失と同視すべきではないか、ということです。
 業務委託する方の法人は第三者に自己の業務を委託する以上、どのような損害も本来、事業者自身の過失として負担するのが原則であり、法人という業務性、営利性の明確な第三者に委託する場合は、そのリスクも第三者に移転させることは許容されますが、そうでない個人の受託事業者に対しては、事業遂行上の過失による損害賠償責任を負担させることは法律上もできない、それは「当事者間の黙示の合意」であるとか、「権利濫用」という法律論になるかと解されます。

 具体的には、委託会社の方が保険に加入していない場合に損害の全額を請求する場合や、委託会社が保険に加入している場合に保険外の損害や免責部分を請求することに対して、個人事業者が責任を否定して拒絶することがあるのです。

使用者側の注意点

 法律論は当事者双方に対等に働くものであり、どちらを特に弁護するものではありません。ただ、この原稿は、業務受託者である個人の権利保護の趣旨のものではなく、個人に業務を委託する法人に対する注意喚起の原稿です。

 実際に、個人の業務受託者に対し、事故による損害賠償を請求したのに対し、個人事業者から、責任を否定する主張をされて紛争になった例があります。

 そこで、個人の事業者に業務を委託する場合の責任の問題については、委託業者としては、業務遂行上の事故による損害賠償請求をしても拒絶される可能があることに留意し、個人事業者の責任も100パーセント填補する体制(賠償保険、または損害保険の完備)、または自己のときは全額自社で負担する覚悟を整えておくべきだということです。