社員の新型コロナワクチン接種に関する注意点について

著者:【社会保険労務士】松田 英之

※こちらの情報は2021年12月時点のものです

新型コロナウイルス感染拡大の影響により、われわれの仕事や生活スタイルは大きく変化してしまいました。
現在ではワクチン接種が収束の切り札となるかどうか、期待と不安が入り乱れた状況となっています。社員同士あるいは対顧客における感染拡大防止の観点から、社員に対してワクチン接種を強く推奨する会社もあると思います。
今回は、会社がワクチン接種を社員に推奨する際の注意点について取り上げます。

Q.社員に接種意向や接種状況等を尋ねてよいか?

A.社員の接種意向や接種状況等を尋ねることは問題ありませんが、社員から個別の事情を聴取すること、接種しない事情の説明を求めることは避けたほうがよいでしょう。
ワクチン接種を受けないことは個人の自由であり、ワクチン接種を行わない選択をしたことを理由に差別的取り扱いを行うことは絶対に許されません

会社は社員に対して安全配慮義務を負っています。
会社は社員のワクチン接種により、短期的には副反応により予想される欠勤者への対応をする点から、また、中長期的には国内外を問わず転勤や出張等の人選に関し、社員の安全を確保する観点から、接種の状況や予定を把握したいという要請も当然あると思います。
前記の目的のために、社員の接種状況や接種意向を把握すること自体は、職場における未接種者に対する差別的な取り扱いには当たらないと考えられます。
なお、接種意向のない社員に対して、会社として接種してもらいたいことを説明する等の説得をすることは問題ありませんが、この場合でも、当該社員が接種を強制されたと感じることがないよう、接種は個人の自由であることを前提とした丁寧な説明が必要です。

Q.会社としてワクチン接種を強く推奨した場合、
①接種時の不就労時間は労働時間として取り扱うべきか?また、
②接種後に副反応で体調不良となり欠勤した場合は賃金を支給しなければならないのか?

A.ワクチン接種が社員の自由意志である限り、
①労働時間として取り扱う必要はありませんし、
②賃金を支払う必要はありません。
ただし、「強く推奨」したことに伴う紛争リスク回避のために、接種時の賃金を保障する「ワクチン休暇」等の措置を講じることが好ましいと思われます。

政府は、接種の推奨を禁じる法令はないとしつつ、ワクチン接種は国民が自らの判断で受けるべきとの見解を示しています。
社員が会社からの「推奨」に対して「自由意志」に基づき任意に接種を受ける場合、使用者の指揮命令下で業務に従事したことにはならず、労働時間には算入されないこととなります。
また、社員が「推奨」に対して「自由意志」に基づき任意に接種を受け、接種の副反応による体調不良のため欠勤した場合は、私的疾病による欠勤となり、ノーワーク・ノーペイの原則により賃金請求権が発生しません。なお、厚生労働省は副反応は労災保険の対象にもならないと指摘しています。

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