パワハラ防止措置の義務化について

著者:【社会保険労務士】深川 晃浩

※こちらの情報は2020年11月時点のものです

パワーハラスメント(以下パワハラ)の防止措置を企業に義務付ける改正労働施策総合推進法(いわゆるパワハラ防止法)が6月1日より施行(中小企業は令和4年4月1日より義務化、それまでは努力義務)されました。パワハラは従業員の労働意欲の低下や離職率を高める原因となるばかりではなく、問題化すれば企業の社会的イメージを損なう可能性のある行為です。

今回は、パワハラの具体的な定義や内容、防止措置などについて説明いたします。

職場におけるパワハラとは

  1. 優越的な関係を背景とした言動
    言動を受ける労働者が行為者に対して抵抗又は拒絶することができない確実性が高い関係を背景にして行われるもの。上司から部下への言動に限らず、同僚や部下による言動でもパワハラになる可能性があります。
  2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動
    社会通念に照らし、言動が明らかに業務上の必要性がなく、またその状態が適当でないもの。
  3. 労働者の就業環境が害される
    言動により労働者が身体的または精神的に苦痛を与えられ、労働者の能力発揮に重大な悪影響などが生じるもの。

パワハラに該当する言動とは

厚生労働省は、パワハラに該当する言動の類型(優越的な関係を背景として行われたことが前提)を示しています。

  1. 身体的な攻撃(暴行・傷害)
    殴打、相手に物を投げつけるなど
  2. 精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱など)
    人格を否定するような言動、繰り返し長時間にわたる厳しい叱責、他の従業員の前で叱責を繰り返すなど
  3. 人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
    仕事を外したり別室に隔離したり、集団で無視するなど
  4. 過大な要求
    業務に直接関係のない作業を過酷な環境下で命じたり、業務に関係のない雑用を強制的に行わせるなど
  5. 過少な要求
    管理職に誰にでも遂行可能な業務を行わせたり、嫌がらせで仕事を与えないなど
  6. 個の侵害
    従業員の機微な個人情報を了解を得ずに暴露するなど

※上記類型は限定列挙ではないので、上記に該当しない場合でもパワハラとして認められる場合もあるので注意が必要です。

パワハラ防止のために講ずべき措置

事業主はパワハラ防止のために、次の措置を講じる必要があります。

◇社内方針等の明確化と周知啓発
パワハラ防止に対する方針を明確化し、従業員に周知・啓発を行い、行為者に厳正に対処する方針を就業規則等に定めて周知すること

◇相談に適切に対応するための体制整備
相談窓口を設置して、従業員に周知すること

◇パワハラ発生時の迅速で適切な対応
事実関係を迅速かつ正確に確認し、被害者への配慮措置を実施後、行為者に対する措置を適正に行い、再発防止に向けた措置を行うこと

◇そのほか併せて講ずべき措置
相談者や行為者等のプライバシーを保護する措置を講じ、相談したことなどを理由に不利益な取り扱いがされないよう従業員に周知すること

また、厚生労働省はパワハラ防止の望ましい取り組みとして、セクハラ、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントと一体的に相談できる体制の整備、アンケート調査や意見交換などを実施してパワハラ防止対策など運用状況の把握や見直しに努めることを挙げています。

まとめ

事業主がパワハラ防止措置またハラスメント問題全般への理解を深め、従業員に研修などを通じてパワハラ防止に関わる周知・啓発を行い、相談者に対する窓口・担当者を設置し、パワハラ問題に迅速に対応できる社内体制を早急に整備することが求められています。今回の法改正には罰則規定は設けられていませんが、会社のハラスメント対応に不備があり、その情報がSNSなどで拡散すれば企業イメージを損なう可能性もあります。最優先課題として体制づくりを進めましょう。