副業・兼業における労働時間の考え方や管理方法について

著者:【社会保険労務士】吉田 紳示

※こちらの情報は2021年1月時点のものです

厚生労働省は「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を2020年9月に改定し、公開しました。このガイドラインでは、副業・兼業における企業の対応や労働者の対応等が示されております。
これと併せて、通達「副業・兼業の場合における労働時間管理に係る労働基準法第38条第1項の解釈等について」が発令されております。この通達では、タイトル通り、副業・兼業における労働時間管理の解釈について示されており、特に労働時間の通算にかかる事項については以下の通りとしております。

(1)労働時間を通算管理する使用者
副業・兼業を行う労働者を使用する全ての使用者(労働時間が通算されない場合として掲げられている業務等を除く)は、自らの事業場における労働時間と他の使用者の事業場における労働時間とを通算して管理する必要があります。

(2)通算される労働時間
労働時間の通算は、自らの事業場における労働時間と労働者からの申告等により把握した他の使用者の事業場における労働時間とを通算することにより行います。労働者からの申告等がなかった場合には労働時間の通算は要せず、また、労働者からの申告等により把握した他の使用者の事業場における労働時間が事実と異なっていた場合でも、労働者からの申告等により把握した労働時間によって通算していれば足りることとされています。

(3)基礎となる労働時間制度
労働時間の通算は、自らの事業場における労働時間制度を基に、労働者からの申告等により把握した他の使用者の事業場における労働時間と通算することにより行います。週の労働時間の起算日又は月の労働時間の起算日が、自らの事業場と他の使用者の事業場とで異なる場合についても、自らの事業場の労働時間制度における起算日を基に、そこから起算した各期間における労働時間を通算します。

(4)通算して時間外労働となる部分
自らの事業場における労働時間と他の使用者の事業場における労働時間とを通算して、自らの事業場の労働時間制度における法定労働時間を超える部分が、時間外労働となります

副業・兼業を希望する労働者は年々増加傾向にあります。
労働者にとっては

  1. 離職せずとも別の仕事に就くことが可能となり、スキルや経験を得ることで、労働者が主体的にキャリアを形成することができる。
  2. 本業の所得を活かして自分がやりたいことに挑戦でき、自己実現を追求することができる。
  3. 所得が増加する。

などのメリットがあります。
企業にとっては

  1. 労働者が社内では得られない知識・スキルを獲得することができる。
  2. 労働者の自律性・自主性を促すことができる。
  3. 優秀な人材の獲得・流出の防止ができ、競争力が向上する。

などのメリットがあります。
その半面、必要な就業時間の把握・管理や健康管理への対応、職務専念義務、秘密保持義務、競業避止義務をどう確保するかという懸念もあります。

実際に副業・兼業を進めるに当たっては、労働者と企業の双方が納得感を持って進めることができるよう、企業と労働者との間で十分なコミュニケーションをとることが重要になります。また、法定労働時間が定められている趣旨にも鑑み、長時間労働にならないよう留意することも必要になるでしょう。