年次有給休暇について

著者:【社会保険労務士】沼田 修

※こちらの情報は2019年2月時点のものです

~『働き方関連法』年次有給休暇の取得義務化~

 昨年、働き方改革関連法案が可決されましたが、この4月1日から順次施行されます。
 働き方改革関連法案では、長時間労働の是正、柔軟な働き方の実現、公正な待遇の確保といった視点から多くの法律が改正されました。その中でも、年次有給休暇の取得義務化は4月から全事業場に一斉に適用され、また、多くの労働者に関わる改正点となります。そこで今回は、年次有給休暇について、使用者が押さえておきたいポイントについてご説明します。

年次有給休暇とは

 年次有給休暇は、労働基準法第39条で定められた休暇です。一定期間勤続した労働者に対して、心身の疲労を回復し、ゆとりある生活を保障するために付与される休暇のことで、「有給」で休むことができる、すなわち取得しても賃金が減額されない休暇であり、一定の要件を満たした全ての労働者に対して与えることが法律で義務づけられています。

 使用者は、雇入れの日から起算して6カ月間継続勤務した中の全労働日のうち、8割以上出勤した労働者に対しては10日、その後1年を経過するごとに勤続年数に応じた日数の年次有給休暇を与えなければなりません。なお、正社員以外のアルバイトやパートタイム労働者などにも労働日数に応じて年次有給休暇は付与されます。

 使用者は、年次有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければなりません。ただし、請求された時季に年次有給休暇を与えることにより代替要員の確保が困難な場合など事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季に与えることができます。これを時季変更権といいます。

年次有給休暇の計画的付与制度

 使用者は、年次有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければなりませんが、年次有給休暇の付与日数のうち5日を除く残りの日数について、使用者が休暇の取得日を指定することのできる制度が「年次有給休暇の計画的付与制度」です。取得日の指定は全社一律、または部署ごと、個人ごとに行うことが可能ですが、導入には労使協定の締結が必要になります。また、付与日数のうちの5日は、個人が自由に取得できる日数として必ず残しておかなければならない点には注意が必要です。

年次有給休暇の取得義務化

 年次有給休暇の取得義務化は、働き過ぎを防ぎながら「ワーク・ライフ・バランス」と「多様で柔軟な働き方」を実現しようという国の考えから生まれた措置です。

 これまでは、年次有給休暇の取得は労働者の請求によるものとされていましたが、これからは、年に10日以上の有給休暇の権利を付与した労働者に対し、そのうち5日間は基準日から1年以内に、労働者ごとに時季を定めて取得させなければなりません。

 なお、労働者が自ら年次有給休暇を取得した場合や計画的付与制度により年次有給休暇を取得させた場合は、その日数分を合計して5日に満たない日数について、労働者の意見を聴取し、その意見を尊重するよう努めた上で、事前に休暇を取得するよう指示をすることが必要となります。

 また、使用者は、年次有給休暇を与えたときは時季、日数及び基準日を労働者ごとに明らかにした年次有給休暇管理簿を作成し、3年間保存することが必要となります。

 年次有給休暇の取得義務化にあたり、中小企業や小規模の事業場では、業務の都合上、労働者が請求する時季に取得されては困るということもあるでしょう。このような場合は、計画的付与制度の実施などにより、あらかじめ使用者が主体となり、年次有給休暇の取得を促進する方法を検討することが有効です。

 また、労働者が年次有給休暇を取得しても業務に影響が出ないような組織づくりや業務の見直しをすることにより労働者の満足度を上げることも、前向きに対応すべき経営のポイントとして、今後、これまで以上の対応が求められていると言えるでしょう。