令和3年4月 社会福祉法の一部改正により何が変わる?

著者:【谷野会計事務所】谷野 芳枝

※こちらの情報は2021年1月時点のものです

令和3年4月より社会福祉法の一部が改正され、新しい福祉の制度が設けられることになりました。私たちの暮らしを支える福祉の在り方が、よりきめ細かく充実したものになるのではないかと期待されます。
主な改正点は、老齢で介護が必要な親が引きこもり状態の子供の生活を支えている8050問題、幼い子供の育児と親の介護を同時に抱えるダブルケア問題、家族や夫婦間のDVと子どもへの虐待問題など、深刻な課題を抱える家族に寄り添い、包括的に支援しようとする制度を設けたことです。これまでの福祉制度は、高齢者、障害者、子供といった分野ごとに専門的な支援を充実させてきました。ところが、分野ごとで一種の縦割りだったため、相談時にたらい回しにされたり、どこに相談して良いかわからない、相談先がないなどの問題がありました。そこで、どんな相談もワンストップで受ける「断らない」窓口の設置や、継続して寄り添う伴走型支援などの包括的な支援体制の構築を目指すことになったのです。制度設計としては市町村の任意事業に留まりますが、国は交付金を新設して新事業を支援する方針です。
また、その他にも認知症施策や「社会福祉連携推進法人」制度の創設など、社会福祉制度が大きく変わることになります。

改正の概要

1.地域住民の複雑化・複合化した支援ニーズに対応する市町村の包括的な支援体制の構築への支援
今までのような分野別で縦割りの福祉制度では、受けとめきれないような地域住民の複合化・複雑化した支援ニーズに対応するため、「断らない相談支援」「参加支援」「地域づくりに向けた支援」の3つの支援を一体的に行う市町村の新たな事業を創設することになりました。国は、この事業に新たな交付金を設け、支援することになっています。

2.地域の特性に応じた認知症施策や介護サービス提供体制の整備等の推進
2025年には認知症の人が730万人にもなり、その後も増加していくと推計されています。65歳以上の5人に1人が認知症を発症することになるわけです。地域社会がこれら多数の人のケアを引き受けていくにあたっては、それぞれの地域の特性を考慮した対策が不可欠です。そのために、認知症対策の総合的な推進等の努力義務を市町村に課すことになりました。

3.医療・介護のデータ基盤の整備の推進
地域におけるきめ細かな福祉を実現するにあたっては、必要な人に切れ目のない医療及び介護を提供できる体制を構築しておかなければなりません。そのために、医療及び介護の総合的なデータ基盤を整備していくことになりました。

4.介護人材確保及び介護業務効率化への取組みの強化
高齢化社会で介護を維持していくためには、言うまでもなく介護人材を安定的に確保するとともに、介護業務そのものの効率化を不断に進めなければなりません。そのため、介護保険事業(支援)計画の記載事項に、介護人材確保及び業務効率化の取組みを追加することとなりました。

5.「社会福祉連携推進法人」制度の創設
社会福祉事業に取り組む社会福祉法人やNPO法人等は、従来は単体で事業を実施し、かつ相互の連携があまり取れていない状態でした。そこで、これらの法人を社員とする「社会福祉連携推進法人」制度を創設し、この連携推進法人を通じて社会福祉事業に取り組む法人相互の業務連携を図っていくことになりました。

新たな制度が実施される意義

市町村や社会福祉団体による新たな取組みを通じて、個人が社会から孤立することを防ぎ、ひいては人と人との関係を再構築することによって、新たな地域社会の実現を目指そうとする今回の社会福祉法改正は、孤独になりがちなコロナ禍のなかで、困ったときに助け合うことが出来る地域共生社会を創るという希望の持てる制度の基盤となるのではないでしょうか。