~成年後見制度~老後に対する準備

著者:【谷野会計事務所】谷野 芳枝

※こちらの情報は2020年3月時点のものです

人間は誰でも歳をとります。認知症患者は2025年に700万人を突破し、65歳以上の5人に1人になると言われています。また、未婚率の増加や核家族化の影響で単独世帯が増えています。驚くべきことに2040年には単独世帯の割合が約40%に達すると予測されているのです。頼れる人がいなければ、安心して老後を迎えられません。

その解決策の一つとして成年後見制度があります。終活という言葉が日常語ともなっている昨今、この制度を利用する人は増加はしていますが、普及しているとまではとても言えない状況です。この制度に対する理解を深め、一人一人が早めの対策をとることが必要ではないでしょうか?

成年後見制度とは

成年後見制度とは、認知症などの理由で判断能力が不十分となり、不動産や預貯金などの財産を管理したり、介護などのサービスや施設への入所に関する契約を結んだりすることが困難だと認められる場合に、利用できる制度です。成年後見制度は、大きく分けると、法定後見制度と任意後見制度の2つがあります。成年後見人や任意後見人は、本人のために支援を行うことが義務付けられます。この制度を利用することにより、本人は自分に不利益な契約を結んでしまうことや、悪徳商法の被害にあうことなどを未然に防ぐことが出来ます。

法定後見制度とは

法定後見制度は、後見・保佐・補助の3つに分かれており、家庭裁判所に申し立てをして援助してくれる人を付けてもらいます。本人の判断能力の程度に応じていずれの援助を受けるべきかを決めることになります。申し立ては、成年後見人等を付けてもらう本人(被後見人)や配偶者、四親等内親族、市町村などが行います。現行の成年後見制度がスタートした当初は、後見人に本人の配偶者、子、兄弟姉妹などの親族が選ばれるケース多かったのですが、最近では、弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門職が選ばれることが増えてきました。法定後見制度においては、家庭裁判所によって選ばれた成年後見人等(成年後見人・保佐人・補助人)が、本人の利益を考えながら、本人を代理して契約などの法律行為をしたり、本人が自分で法律行為をするときに同意を与えたり、本人が同意を得ないでした不利益な法律行為を後から取り消したりすることによって、本人を保護・支援します。

任意後見制度とは

任意後見制度は、本人に十分な判断能力があるうちに、将来、判断能力が不十分な状態になった場合に備えて、あらかじめ自らが選んだ任意後見人に、自分の生活、療養看護や財産管理に関する事務について代理権を与える契約(任意後見契約)を公証人の作成する公正証書によって結んでおくというものです。そうすることで、本人の判断能力が低下した後に、任意後見人が、任意後見契約であらかじめ定めておいた事務について、家庭裁判所が選任する「任意後見監督人」の監督を受けながら、本人を代理して契約事務などをすることによって、本人の意思にしたがった適切な保護・支援をすることを目指すことになります。

現在、判断能力が不十分とみられる人の総数は推計ですでに約900万人いるといわれている中で、成年後見制度の利用者は、そのうちわずか2%にすぎません。普及が進まない理由の一つに、専門職後見人に必要となる報酬額(本人の財産額により違いますが最低月額2万円程度)が心理的な負担となっていることが挙げられます。ただ、被害にあう恐れや面倒な契約などの手続きをしてもらえる安心感には代えられないとも言えます。

成年後見制度以外に、比較的新しい制度として家族信託があります。自分の老後や介護等に必要な資金の管理や支出を行う際、保有する不動産や預貯金などを信頼できる家族に託し、その管理や処分を任せる財産管理の方法です。信託契約により、名義は家族(受託者)に移りますが、本人(受益者)のために財産を管理・使用してもらいます。契約をするときは専門家による支援が必要ですが、成年後見制度のように裁判所の関与が不要で、受託者を家族にすれば専門家に対する定期的な報酬も不要とすることができます。

人生100年時代と言われていますので、老後にどのような準備をしていくかが大事になりますね。