コロナ禍における知的財産に関して

著者:【弁理士】大上 寛

※こちらの情報は2020年7月時点のものです

緊急事態宣言、東京オリンピックの延期決定など、4月にはコロナウィルス蔓延による大きな影響をうけました。6月、7月には収束されているとよいのですが、長期化が予想され、いわゆる共存の覚悟のようなものを謳う専門家もおられます。

他方、サプライチェーンの再構築や、リモートワーク・オンラインサービスへの急速な移行など、多くの対応が迫られています。コロナウィルスの影響が大きいがために、その対応の重要度、緊急度が増し、政府関係の助成金制度も多く発表されました。

今回はこのコロナ禍で知的財産に関していくつか話題を掲載します。

医薬の有効期限についての問題

コロナウィルスの有効な可能性を有する治療薬として、日本の医薬が話題になりました。ニュースを反映し一時株価が急激に上昇するなどしましたが、その後、物質特許の有効期間が満了していることも報道され話題になりました。特許技術は独占排他的に特許発明を実施することができるため、市場独占による売上確保が見込まれます。特許の存在の有無は企業業績、株価に大きく影響します。

日本では、特許の有効期間は最長20年ですが、医薬の場合は、最長で5年の延長が認められます。このように特許の有効期間は永久ではなく、限りがありますので、常に有効期間を意識しながら企業活動をすることが有効です。

他方、他社の特許が障壁となって製造販売や参入ができない企業においては、いわゆる「特許切れ」(有効期限終了)のタイミングを見計らって参入するということも重要な戦略となります。

実務としては、自社の開発テーマと他社の特許などをまとめた「特許マップ」を作成し、自社の技術ロードマップを策定することを行うことが有効です。

フェイスシールドの開発(新規性喪失の例外)

眼鏡のように耳にかけて装着するものや、おでこに被せるリングタイプのものなど、多くのものが発売されました。簡易的なものであっても、飛沫を防ぐためには絶大な効果があるとのことです。スーパーや各種店舗のレジでも、透明板やアクリルフィルムなどが配置され、飛沫感染予防対策が採られました。

このような簡易的な構造のものも、特徴があれば特許出願により特許権を取得することが可能です。

緊急を要するため特許出願の前に発売を開始した場合には、公開により新規性を失ってしまいますが、公開後一年以内であれば新規性喪失の例外の適用を受けることにより、特許となる可能性があります。

「思いの外売れたので主力製品にしたい」、「粗悪な模造品が出回り始めたので正規品として独占したい」などの場合には、特許出願を検討するのもよろしいでしょう。

コロナウイルスに関連する商標出願

例えば、消毒液について、「XXXバスター」、「アンチXXX」など、コロナウィルス対策を標榜する商標の出願も散見されました。機能を全面に出した商品名を商標として保護することで、宣伝効果も狙えます。また、商標を独占的に使用できるので、ブランド価値の向上を図ることも可能となります。

マスクについて、「XXX対策マスク」、「完全対応XXXブロックマスク」など、マスク関連の商標出願も、今後もしばらくは増えるのではと予想します。

むすび

この大変な状況で「特許や商標は後回し」という企業様も多いと思われますが、業種によっては社会ニーズが高まり、それに関連して様々な新規商品、サービスも生まれてくると考えます。

 上記で説明しました「新規性喪失の例外」の制度もあり、まずは販売してチャレンジし、追っかけで特許出願や商標出願をすることも可能ですので、ぜひ活用をご検討ください。