日本での中国ブランド商標の悪意ある先取り

著者:【弁理士】大上 寛

※こちらの情報は2022年7月時点のものです

7月に入り本格的な夏が近づいてきました。新型コロナウィルスが蔓延した当初は、気温が高くなれば収束するともいわれておりましたが、昨年の8月のオリンピックには感染拡大となっておりました。2022年の夏はどうなっているでしょうか。海外を見ると国によって対策が様々です。今年の4月上旬は中国の大都市の上海でロックダウンがされ、大きなニュースになりました。中国経済のみならず世界経済への影響も大きいことが懸念されます。中国経済の今後の見通しについては様々な予測がされていますが、多くの関心が集まるところであります。
そんな中国に関連し、今回は中国ブランドを日本で先に登録する悪意のある行為についてお話しします。

1.「Made In Japan」といえば…

この記事を書いておりますわたくし(弁理士の大上)は、日中間の知財サポート提供を目標に、2012年~2018年頃は頻繁に中国に行っておりました。このころは、自動車、家電製品、化粧品、食品、生活雑貨などについて、日本ブランドは中国で絶大な信頼を得ており、多くの企業が模倣品対策に大きな力を注いでいたという記憶があります。弊所でもいろいろとサポートをさせていただきました。おおよそは、「わが社のニセモノ商品が出回っている」といった感じでした。2022年現在もこういった問題は続いていると考えます。
ニセモノだけではなく、日本の商標が勝手に中国で商標登録されたということも大きなニュースになり、その頻度も高いものでした。大概が悪意をもって先取り的に中国で日本ブランドの商標を取得し、後に高額で売り渡すなどといった目的でありました。

2.日本での中国ブランドの浸透

2022年現在では、家電、デジタル製品など、多くの中国製品が日本で流通し、顧客を獲得しております。かつての日本ブランドとして人気のあったカテゴリーも中国ブランドに置き換わったものも多くあり、量販店で普通に販売されております。さらに、今までになかった新カテゴリーについては、当初から中国ブランドが市場を先行しているということもあります。特にドローン、アクションカメラ、ジンバル、バッテリーなどのデジタル関係が思いつきます。近年では、化粧品や食品なども多く存在し、インターネット通販ではありとあらゆるカテゴリーで中国ブランドが認知され出しているといえるでしょう。今後もこの傾向は続くものと予想されますが、新型コロナウィルスのパンデミックやウクライナ戦争などの影響を受け、鈍化するかもしれません。仮にパンデミックや戦争などがなかったとすれば、今頃は多くのカテゴリーにおいて中国製品のシェアが拡大していたものと思われます。

3.日本での中国ブランド商標の悪意ある先取り

昨今は、中国企業の商標が悪意のある者に日本で先取りされたというケースが増えています。従来日本企業が中国で先取りをされていたようなケースと同じです。
「悪意のある者はだれか?」ということが気になりますが、出願人や権利者をみると日本の株式会社だったり、中国の会社だったり、個人だったり、様々ですが、実際の国籍については不明です。
昨今はSNSの影響が大きく、多額の広告宣伝費をかけてインフルエンサーに依頼し、巨大プロモーションを行う中国企業も多くあるようです。TikTokのユーザー数も膨大であり、たちまち拡散して一瞬で人気ブランドが確立してしまうことになります。
悪意のある者は、そのような新商品を見つけた瞬間に、日本で商標権を先取りしたりするのです。

4.悪意の商標は登録されてしまう?

日本特許庁の審査官が悪意であると判定すれば、悪意の商標の出願は拒絶されることになります。ただし、審査官の調査能力も限界があり、特に海外で短期間で周知・著名になった商標は拒絶するのが難しいというのが現状です。弊所では先取りされてしまった正規の中国企業からの相談が増えてきています。

5.まとめ

悪意ある者に中国製品の商標を日本で先取りされてしまうと、正規品であっても日本に輸入できなくなる可能性も高くなります。そうなると、中国からの仕入れができなくなってしまい、大きな問題になることでしょう。日本での中国ブランドの悪意の登録を排除する重要性は、今後より一層高まるものと考えます。