相続でもめない遺言書の書き方

著者:【税理士法人 谷野会計】谷野 芳枝

※こちらの情報は2022年7月時点のものです

前回は、法定相続分と遺留分について解説しました。
相続は、遺言がない場合には民法の定める法定相続分によります。遺言がある場合は、第三者に全財産を遺贈することも可能です。ただし、遺留分があることは、前回に解説したとおりです。近年、今までの人生を振り返りながら、相続財産の配分を遺言として残す人も多くなっています。また、親交のない兄弟、甥姪に財産を相続させるより、地域の福祉に役立ててほしいという気持ちを持つ人も増えています。
今回は、相続が争族にならないために、また相続財産をどのように分けてほしいかを生前に準備するために、遺言書の書き方について解説します。
遺言書について、知っておくポイントは次のとおりです。

1.遺言書の種類

遺言は、民法の定める方式に従わなければすることができません。
代表的な遺言は、自筆証書遺言、公正証書遺言です。

  • 自筆証書遺言は筆記能力さえあれば簡単に作成でき、費用もかからないのですが、遺言書の保管に気をつけることや家庭裁判所での検認が必要です。
  • 公正証書遺言は、公証人が作成してくれるため、遺言の存在と内容が明確であり、遺言の執行もスムーズに進むことが期待できます。公証人に依頼するので、印鑑証明書や財産目録、固定資産評価証明書などの資料が必要となり多少の費用もかかりますが、文字が書けなくても作成は可能です。遺言者が公証人役場に出向くことができない場合には、公証人に自宅や病院に出張してくれるよう依頼し、作成してもらうこともできます。

2.法律の改正等によって可能となった自筆証書遺言の便利な取扱い

(1)財産目録の書き方

民法改正により財産目録の作成方式が緩和されました。自筆証書遺言を作成する場合には、全文を自筆で書くことが原則ですが、遺言事項と添付書類である財産目録とを分け、前者については従前どおり全文自筆で書くことを要求する一方で、後者については、自書を要件とせず、パソコンなどで作成し印刷したもの等でもよいこととし、その場合は、印刷等した財産目録の各ページに遺言者の署名捺印を要することになりました。これにより、財産目録については、パソコンで作成したものだけでなく、遺言者以外の者が代筆したものや、不動産登記事項証明書、預貯金通帳のコピー等を添付し、それらを目録として代用する方法も認められるようになりました。

(2)遺言書の保管方法

法務局で保管ができるようになりました。このことについても、以前に解説しました。
要点は、相続人が遺言書の存在を把握することができないまま遺産分割が終了し、あるいは遺言書が存在しないものとして進められた遺産分割協議が遺言書の発見により無駄になるおそれがあること等の問題が指摘されたことから、平成30年に、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が制定されました。この制度を利用すると、法務局の遺言書保管官が遺言書の保管や遺言情報の管理をしてくれ、相続が開始して、相続人等からの申し出により遺言書情報証明書を交付し又は関係遺言書の閲覧をさせたときは、速やかに、当該関係遺言書を保管している旨を遺言者の相続人、受遺者及び遺言執行者に通知してくれます。また、遺言書保管所に保管されている遺言書については、家庭裁判所による遺言書の検認手続を経る必要はありません。

3.もめない遺言書の作成は専門家に相談するのがベター

遺言書の作成にあたっては、法律的な効果を生じる内容のものを作成しなければならないのはもとより、なるべく相続人間の争いが生じないような内容にすることが望まれます。例えば遺留分に配慮しないと、遺留分侵害額請求を招きますので、相続人間でもめる元になります。できるだけ遺留分を侵害しない遺言内容とするなどの工夫が必要です。
また、不動産の相続内容を指定したり、遺贈したりする場合には、なるべく共有名義にしないといった工夫も必要です。
相続税については、予想外の税額に困ることのないよう備えるとともに、相続税が支払いやすいように金融資産の分け方についても工夫することが望まれます。

4.自筆証書遺言作成のポイント

民法は、「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。」と、自筆証書遺言の要件を規定しています。つまり、

  • 遺言者本人が全文(財産目録を除いて)を自書すること
  • 作成日付を記載すること
  • 署名をすること
  • 押印すること

上記の要件を守れば遺言書は有効ですが、作成する際には対象となる財産をできる限り特定できるように記載するとともに、上述のように遺留分にも配慮した内容にしたいものです。