『商標権の譲渡』について

著者:【弁理士】大上 寛

※こちらの情報は2023年1月時点のものです

新年明けましておめでとうございます。弁理士の大上です。本年も特許や商標等の知的財産権に関する情報を提供させていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします。
2022年は急激な円安が進み、原料高騰に伴う物価高が大きなニュースとなりました。多くの企業が為替の急激な変動への対応を余儀なくされました。個人では、日本円の相対価値が下がると言われ外貨預金の申込みに殺到するといったニュースもありました。「あのとき米ドルを買っていれば・・・」といった“タラレバ”は数年に一回は訪れますね(笑)。2011年には1ドル80円を下回ったこともありましたが、11年後の2022年10月には146円を上回りました。おおよそ66円の差となり80%を超える上昇です。「歴史は繰り返される」、と言われますが10年後はどうなっていることでしょう。世界統一のデジタル通貨、あるいは、金(GOLD)現物に戻ったりするかもしれませんね…。
2023年も世界情勢は落ち着かないものとなりそうですが、個人としては、地に足をつけて、目の前の現実的な課題に真摯に向き合う一年にしたいと思います。
さて、前置きが長くなりましたが、今回は『商標権の譲渡』についてのお話です。

1.『商標権の譲渡』とは?

商標権を持っていると、ある日突然見知らぬ人から『商標権を譲ってほしい』という連絡が入ることもあります。商標権者の情報は公報や原簿に公開されているので、突然郵便で連絡が入ることや、インターネットホームページを通じて電話やEメールで連絡が入るということもありえます。
商標権を譲って欲しい『理由』としては、『商標を使用したい』、『自社の商標と紛らわしいので吸収したい』など様々なものがあり得ます。
一方で、商標権者からすると、その時の状況に応じて対応を検討する必要があります。自社の重要な商標(ブランド)である場合には当然に『依頼を断る』ことになるでしょう。一方で、数年使用をしていない場合や、ブランドを廃止予定である場合には、前向きに検討してもよいでしょう。タダで譲るわけにはいきませんし、条件交渉などをしてもよいと思います。予想外の高額を提示され、ウキウキしてしまうこともあるかもしれません。

2.商標権の譲渡のための必要書類

譲渡手続きは、権利者の種別などによっていくつか方法がありますが、代表的なケースの必要書類としては以下のものがございます。

  • 譲渡人(現商標権者)と譲受人(新商標権者)の間で、『譲渡契約書』を作成し、契約をいたします。『譲渡契約書』の原本は特許庁に提出します。
  • 譲渡人(現商標権者)が『譲渡契約書』に捺印した印鑑(実印)の『印鑑登録証明書』が必要になる場合があります。
  • 弁理士などに依頼する場合の委任状

3.注意点

譲渡人(現商標権者)の立場では、譲受人(新商標権者)からの代金の支払いが重要となります。商標権を譲ったにもかかわらず、いつまで経っても入金がされないようでは、譲った意味がありません。時間が経つにつれ相手もゴネだして、大きなトラブルに発展してしまうこともあります。『トンズラ』されてしまったら大変です。
譲受人(新商標権者)の立場では、例えば、譲渡人(現商標権者)がいつまで経っても『印鑑登録証明書』を準備してくれず、代金を支払ったにもかかわらず、手続きを進めることができない、といったトラブルが想定されます。こちらも『トンズラ』されてしまったら大変です。

それぞれの立場においてリスクがあるので、例えば、代金を段階的に支払うことや、契約時に必要書面をすべて揃えて応対を一回で済ませるなど、段取りが重要になります。特に、いずれか一方の立場が強く、対等に進めにくい場合では注意が必要です。

また、外国企業との対応や、間に代理人を挟む場合なども、必要書面や外国送金など、考慮すべき事項が多くありますので、交渉段階からゴール(最終的な譲渡手続き完了)を見通して、慎重に進める必要があります。

4.まとめ

いかがでしたでしょうか?
権利譲渡や交渉では金額に注目しがちですが、譲渡手続きが完了するまでには、書面の準備、契約内容、代金支払、特許庁での登録など、複数の段階を経る必要があります。
各段階で躓くことなくスムーズに完遂できるよう、慎重に進めることが大切です。