労働審判手続き

著者:【弁護士】吉川 法生

※こちらの情報は2022年7月時点のものです

ここ10数年、多くの労働紛争が発生しています。
裁判手続でも、平成18年から労働審判という手続が施行されてきました。残業代の請求、解雇等労働関係終了に伴う問題、退職金の請求などの案件が多く係属しており、高い水準の件数で推移しています。
今回は、この労働審判手続についてご説明いたします。

労働審判という手続の目的は、個々の労働者と事業者との間に生じた民事に関する紛争(個別労働関係民事紛争)に関し、裁判官及び労働関係に関する専門的な知識経験を有する者で組織する委員会が、事件を審理し、調停の成立による解決の見込みがある場合はこれを試み、その解決に至らない場合には、当事者間の権利関係を踏まえつつ事案の実情に即した解決をするために必要な審判を行う手続を設けることにより、迅速、適正かつ実効的な解決を図ることにあります(労働審判法1条)。

この目的にあるとおり、労働審判手続には次のような特徴があります。

①労働関係の専門家による関与

労働審判手続は、労働審判官(裁判官)1名と労働審判員2名で組織する労働審判委員会が行います。労働審判員は、雇用関係の実情や労使慣行等に関する詳しい知識と豊富な経験を持つ者の中から任命され、中立かつ公正な立場で、審理・判断に加わります。使用者側からは企業の人事部長や人事担当取締役、労働者側からは労働組合で賃金・解雇等の相談業務にあたった経験のある労働組合の役員(いずれもOB含む)などです。

②迅速な手続

原則として3回以内の期日で審理を終えることになっていますので、迅速な解決が期待できます。

③事案の実情に即した柔軟な解決

労働審判委員会は、まず調停という話合いによる解決を試み、話合いがまとまらない場合には、審理の結果認められた当事者間の権利関係と手続の経過を踏まえ、事案の実情に即した判断(労働審判)を行い、柔軟な解決を図ります。

④異議申立による訴訟移行

労働審判に不服のある当事者は、労働審判の告知から2週間以内に異議申立をすることができます。適法な異議申立てがなされた場合は、労働審判は効力を失い、訴訟手続に移行します。

以上のような特徴をもつ労働審判手続ですが、平成18年から令和元年までに終了した事件について、平均審理期間は77.2日であり、70.5%の事件が申立から3か月以内に終了しています。また、審判手続による解決としての調停成立は約7割となっています。これは、通常事件の和解の成立率が約3割であるとされていることと比較しても、高い割合で話合いによる解決がなされているといえます。
こうしたことから、労働審判手続は当初の期待された目的、役割を十分果たすものになっていると評価できるものといえそうです。今後も、簡易、迅速、短期間で事案の真相に迫るための工夫を全ての当事者がしていくことが求められます。