手形の紛失

著者:【弁護士】吉川 法生

※こちらの情報は2022年9月時点のものです

Q

取引先から代金の支払のために受取った手形を紛失してしまいました。
いくら探しても見つかりません。取引先に代金を請求することはできないのでしょうか。

A

手形の所在がわからなくなった場合、手形上の権利が失われるわけではありません。しかし、手形がなければ権利を行使することはできなくなりますし、第三者に善意取得されて権利を失うおそれもあります。
そこで、手形を紛失した場合には、その救済の方法として、公示催告による除権決定という手続が認められています

まず、この手続について説明します。
手形所持人が手形を紛失、滅失し、または盗難にあった場合には、手形上の支払地を管轄する簡易裁判所に対し、公示催告の申立をすることができます。この場合、手形を紛失した事情を疎明する必要がありますので、振出証明書、警察への紛失届もしくは被害届の証明書、紛失したときの状況などを記した報告書などを提出することになります。
申立を受けた裁判所は、当該手形を所持している人は、一定の期日までに、権利を裁判所に届出て、かつ手形を提出すべきこと、もしその期日までに届出がない場合は、手形の無効宣告をすることを公示します。この公示催告決定から2週間から1か月くらい後に官報に公示催告決定が掲載されます。
公示催告期日までに手形の提出がないときは、裁判所は申立によって除権決定をします。公示催告申立から除権決定まで、およそ5~6か月かかります。除権決定前に第三者から権利の届出があったときは、除権決定を申し立てることはできません。

除権決定があると、手形は手形としての効力を失い、手形は単なる紙切れとなります。以後、第三者が取得しても善意取得の効果が生ずることはありません。この除権決定によって申立人は手形を所持するのと同様の地位を回復し、手形がなくても取引先に手形上の権利を行使することができます。
問題となるのは、公示催告の申立をして、除権決定が出されるまでに手形が善意取得された場合ですが、善意取得者の権利が優先すると考えられています。

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