所有者不明土地関連法の改正(3)

著者:【弁護士】吉川 法生

※こちらの情報は2023年3月時点のものです

前回につづきまして、所有者不明土地を円滑かつ適正に利用するための仕組みについてご説明いたします。
所有者不明土地の円滑かつ適正な利用の仕組みを整備する観点から、民法の改正が行われました。詳細は各章を見ていただくとして、概要を説明します。
なお、これら民法の規定の見直しは令和5年4月1日施行となっています。

(ア)所有者不明土地・建物の管理制度の創設

現行法でも土地・建物の管理制度として、不在者財産管理人あるいは相続財産管理人という制度がありますが、これらの制度は財産全般を管理する必要があり、負担も重く、非効率であるという指摘がありました。
そこで、特定の所有者不明土地・建物の管理に特化した新たな財産管理制度を創設することになりました。利害関係人の請求により、裁判所が管理命令を発令し、管理人を選任し、裁判所の許可があれば売却することも可能となりました。適切な運用によって、所有者不明土地・建物の管理を迅速化・効率化・合理化することが期待されます。

(イ)管理不全土地・建物の管理制度の創設

土地・建物の所有者は判明しているが、その所有者による管理が不適切であることによって荒廃・老朽化などにより危険な状態になっているというようなケースにおいて、他人の権利が侵害される、または侵害されるおそれがある場合に、利害関係人の請求により、管理人の選任を可能にする制度を創設することになりました。これによって、管理不全の土地・建物の適切な管理が可能となることが期待されます。

(ウ)共有者不明の場合への新たな対処

共有者の中に所在等不明共有者がいる場合、または、賛否を明らかにしない共有者がいる場合、共有物の利用の円滑化を図るため、裁判所の関与の下、不明共有者等に対して公告等をした上で、残りの共有者の同意で共有物の変更行為や管理行為を可能にする制度、及び、不明共有者の持分の価額に相当する額の金銭を供託することにより、不明共有者の共有持分を取得して不動産の共有関係を解消する仕組みを創設することになりました。
これらにより、共有物の利用・処分を円滑かつ適切に進めることが期待されます。

(エ)遺産分割長期未了状態への新たな対処

遺産分割が長期間放置された場合、具体的相続分に関する証拠等が散逸し、遺産分割協議を成立させて、共有状態を解消させるということが困難となります。
そこで、相続開始から10年を経過したときは、個別案件ごとに異なる具体的相続分ではなく、法定相続分で遺産分割を行う仕組みが創設されました。これにより、長期未了状態の遺産分割の解消を促進することが期待されます。

(オ)隣地等の利用・管理の円滑化のための新たな対処

現行法では、ライフラインである導管等の隣地等に設置する場合の隣地使用に関する明確な根拠規定はなく、土地の利用が阻害されるケースがありました。
そこで、一定の要件の下、ライフラインを自己の土地に引き込むための導管等の設備を他人の土地に設置する権利が明確化され、隣地所有者が不明であっても対応できる仕組みも整備されました。これによってライフラインの引込みを円滑化し、土地の利用を促進することが期待されます。