障害者雇用とは?

著者:【社会保険労務士】池田 文昭

※こちらの情報は2023年2月時点のものです

障害者雇用は、より良い社会を実現していくために検討すべき課題であり、法律に定められた企業の義務でもあります。中小企業も障害者雇用について理解を深め、取り組んでいく必要があります。

障害者を雇用する事業主に対して、相談や支援を行う中心的な機関として、以下の3つがあります。

ハローワーク

障害者の状態に応じた職業紹介、職業指導、求人開拓などを行っています。
具体的には…就職を希望する障害者に対して、専門の職員・職業相談員が、障害の状態や適性、希望職種などに応じ、きめ細かな職業相談、職業紹介、職場適応指導を実施します。

地域障害者職業センター(全国47か所+5支所)

者職業カウンセラーによる障害者に対する職業評価や職業準備支援を行っているほか、事業主に対しては障害者雇用に関する専門的な支援を行っています。
具体的には…障害者の雇い入れ計画や、職場配置・職務設計、職場での配慮や業務の指導方法についての助言、従業員への研修などを行っています。

障害者職業・生活支援センター(全国335か所)

障害者の身近な地域において、就業面と生活面の一体的な相談・支援を行います。
事業主からの雇用管理についての相談も受け付けており、企業訪問による支援も行っています。

障害者雇用率制度

全ての事業主は、従業員の一定割合(=法定雇用率)以上の障害者を雇用することが義務づけられており、これを「障害者雇用率制度」といいます。

【例】常時雇用している労働者が120人の企業の場合、2人以上の障害者雇用義務があります。
120人×2.3%(法定雇用率)=2.76人
(※短時間労働者や、重度身体障害者、重度知的障害者などは、カウント方法が異なります)

※障害者を雇用しなければならない民間企業の事業主の範囲は、労働者43.5人以上の事業主です

初めて障害者雇用に取り組む場合、例えば、次のように段階的に進めることができます。

〈障害者雇用の流れ〉※これはあくまで一例です。

  • 障害者雇用の理解を深める
    ○ハローワークなど支援機関への相談
    ○社員研修の実施、障害者に対する職場実習の受け入れ
  • 配置部署や従事する職務を選定する
    ○社内での検討
    ○地域障害者職業センターによる提案・助言など、支援機関の活用
  • 受け入れ体制を整え、労働条件などを決める
    ○施設などの改造、就労支援機器の無料貸出の活用
    ○募集人数、採用時期、採用部署などの決定
  • 採用活動を行う(募集~採用)
    ○ハローワークへの求人申し込み
    ○障害者就職面接会への参加
  • 職場定着
    ○ジョブコーチ支援の活用
    ○地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センター、特別支援学校などの連携による支援

企業が障害者雇用を行うべき理由とは?

法律に定められた義務を果たすだけではなく、企業が障害者雇用を行うことによって得られるメリットも多々あります。

  • 障害者雇用によってSDGsに貢献
    企業による障害者雇用は、持続可能な開発目標(SDGs)の目標である「8.働きがいも経済成長も」「10.人や国の不平等をなくそう」「17.パートナーシップで目標を達成しよう」などにつながります。障害者雇用という企業としての社会的責任(CSR)を果たすことで、取引先等からの信頼を得られます。
  • 障害者雇用に関する各種助成・支援を受けられる
    人員不足・労働力不足の昨今において、自社の労働力を確保できるだけではなく各種助成・支援も受けられるのは、企業にとって大きなメリットになります。
  • 合理的配慮による業務効率化が期待できる
    障害者が企業でストレスを感じることなく働く環境を整えるためには、障害者のための個別の調整や変更、いわゆる「合理的配慮」が必要となります。
    既存の業務フローをあらためて見直すことは、企業内の属人的な業務手順を見直すいいタイミングでもあります。無駄のないフローへの改善は、結果として企業としての業務効率化につながります。

企業が障害者を雇用すると受けられる助成金や支援制度

a.企業が障害者の適性を確認できる「トライアル雇用助成金」

「トライアル雇用助成金」とは、企業がハローワークや民間の職業紹介事業者から紹介を受けた障害者を、一定期間雇用した際に支給される助成金です。企業は障害のある求職者の適性やスキルを確認し、継続雇用へ移行するかどうかを判断できるため、障害者雇用に際して不安を抱える企業には利用価値があります。

  • 障害者トライアルコース
    障害者トライアルコースを使って障害者を雇用すると、1人あたり月額最大4万円の助成金が支給されます。雇用期間は原則3か月間です(テレワーク勤務だと6か月まで延長可)。
  • 障害者短時間トライアルコース
    精神障害者や発達障害者によっては、週20時間以上の勤務が難しい場合があります。そのような障害者を、短時間から雇用を始めるのが障害者短時間トライアルコースです。

b.障害者の継続雇用で支給される「特定求職者雇用開発助成金」

「特定求職者雇用開発助成金」とは、高齢者や就職氷河期世代など就職が難しい求職者を、継続的に雇用した企業に支払われる助成金制度です。障害者に関しては、2コースが用意されています。

  • 特定就職困難者コース
    特定就職困難者コースは、企業が重度の身体・知的障害者、45歳以上の身体・知的障害者や精神障害者などをハローワークなどの紹介で継続的に雇用すると適用される制度です。障害者の状況や企業規模などに応じ、助成金が支払われます。
  • 発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース
    発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コースは、発達障害者やもやもや病などの難病患者をハローワークなどの紹介によって継続的に雇用した場合に適用されます。労働時間や企業規模に応じて、助成金が支給されます。

c.障害者の正規雇用で支給される「キャリアアップ助成金」

非正規雇用労働者の企業内でのいわゆるキャリアアップを促進するため、正規雇用化や処遇改善などの取り組みを実施した企業に対して支給されるのが、「キャリアアップ助成金」です。(※助成金には他にも詳細な条件がございますのでご注意下さい)

障害者雇用を円滑に進めるために

障害者雇用は法的義務を果たすだけではなく、企業にとって多くのメリットがあります。雇用を進める際に生じる問題を解決するには次のように進めることが良いでしょう。

  • 会社の方針を明確にして、社内理解を深める
    企業の社会的責任を果たすための義務であることを説明した上で、「なぜ雇用するのか」「どのような方針・計画をもって雇用を進めるのか」を丁寧に説明します。
    障害者の雇用方針が、企業理念や雇用全体の方針と一致していることが大切です。
  • 現場と協力して障害のある社員のサポート体制を作る
    現場が抱える不安を解消するためにも、担当者を中心に会社全体でサポート体制を作ることが大切です。現場からの不安や疑問に丁寧に回答します。
  • 本人と話し合い、障害特性や能力、配慮事項をきちんと把握して現場と共有する
    障害のある社員に合理的配慮として必要なサポートを行うためには、採用時や現場に配属される前に本人と話し合い、その障害特性や能力、どのような点に配慮してほしいのかを把握しておく必要があり、その情報は本人の了承を得た上で社内で共有します。

最後に

障害者雇用を進めていく根底には、「共生社会」の実現という理念があります。障害に関係なく、希望や能力に応じて、誰もが職業を通じた社会参加のできる「共生社会」をつくっていく必要があります。
障害者雇用は、企業にとっても良い効果をもたらします。例えば、障害者の特性を強みとして捉え、合致した活躍の場を提供することで、企業にとっても貴重な労働力・戦力の確保につながります。
ほかにも、障害者がその能力を発揮できるよう職場環境の改善やコミュニケーションの活性化が図られることで、他の従業員にとっても安全で働きやすい職場環境が整えられます。これは、企業全体の生産性向上、マネジメント力の強化にも結びつきます。

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