事前調査と実地調査~相続税の税務調査対策 その2~

著者:【税理士法人 谷野会計】谷野 芳枝

相続税の実地調査は、資料情報等から申告額が過少であると想定される場合や、申告義務があると推定されるのに申告がない場合等について、実施されます。令和2年度においては、新型コロナウイルス感染症の影響により、実地調査件数は5106件と⼤幅に減少しましたが、1件当たりの平均追徴税額は 943 万円(対前年度⽐ 147.3%)となり、過去10年間で最⾼となりました。実地調査件数に対する申告漏れの率は実に87.6%にもなります。
なぜこのような結果になるのでしょうか?それは、税務署が被相続人の収入や財産状況等を事前に調査して、不正や洩れが疑われる事案について優先的に実地調査を行うためです。
今回は税務署がどのような視点で事前調査と実地調査を行うのか、その概略をご説明します。

事前調査

相続財産が少なすぎる

毎年提出される所得税の確定申告書は、税務署に保存されており、10年以上前であってもコンピュータシステムを利用して被相続人の所得や収入のデータを詳細に把握することができます。税務署は、被相続人の収入の状況から「相続財産としてこの程度あるはず」といった数字を推計します。この数字と実際に提出された相続税の申告書に記載された相続財産とを比較して妥当性を検証します。

家族名義の預貯金が多額にある

相続税の申告書が提出されますと、税務署は相続税の申告書に記載された預貯金について、銀行などの金融機関に照会して残高や口座の動きを確認します。被相続人名義の口座だけではなく、配偶者や子供などの家族名義の口座も調べます。

  • 預貯金の名義人となっている家族が自分自身の給与などの収入で貯蓄し得たか
  • 被相続人から現金を贈与された形跡はないか

預貯金の出入りが多い、出金理由が不明のものがある

  • 相続開始前に多額の引き出しがないか
  • 高価な宝石、骨董品・書画などの購入に使われていないか

税務署の入手する法定調書との比較

現在60種類以上の法定調書があります。主なものは下記の通りです。

所得税法に規定するもの 43種類
  • 給与所得、退職所得の源泉徴収票
  • 報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書
  • 不動産の使用料等の支払調書 など
相続税法に規定するもの 5種類
  • 生命保険金・共済金受取人別支払調書
  • 損害(死亡)保険金・共済金受取人別支払調書
  • 保険契約者等の異動に関する調書 など
租税特別措置法に規定するもの 8種類
  • 上場証券投資信託等の償還金等の支払調書
  • 特定口座年間取引報告書
国外送金等調書法に規定するもの 4種類
  • 国外送金等調書
  • 国外財産調書

実地調査

税務調査の当日は、一般的には調査官2名によって午前10時から調査がスタートします。まずは、雑談からスタートし、午前中は主にヒアリングをします。亡くなった方の趣味や仕事、そして相続人に関する情報等が聞かれます。この時に亡くなる前の被相続人の判断能力の有無も重要な要素として聴取されます。
午後は主に、資料の調査結果や具体的な問題点についての質疑応答が行われます。通帳や印鑑の現物の確認等と、税務職員が事前に調査してきたことにもとづく質問などです。

税務調査の終了

相続税の税務調査の結末は、概ね3パターンがあります。

  • 申告是認
    税務調査官がもともとの申告が正しく追加の税金は無かったと認めるものです。
  • 修正申告
    税務調査官が相続税の申告漏れを指摘し、相続人もこれを認めて自主的に申告を提出し直すものです。
  • 更正・決定
    税務調査官が相続税の申告漏れを発見するも、相続人がこれを認めない場合に、税務署が強制的に足りない税金の額を決定します。