変わる相続対策 相続税改正~暦年贈与と相続時精算課税~

著者:【税理士法人 谷野会計】谷野 芳枝

※こちらの情報は2023年5月時点のものです

2023年度(令和5年度)の税制改正により、2024年1月1日以後の相続税が大きく変わります。改正の中でも生前贈与に大きな影響を及ぼす項目について解説します

暦年課税の改正

改正の内容

生前贈与を受けた財産に対しては、原則として贈与税が課税され、相続税の対象となりません。ただし、死亡日から遡って3年以内に相続人に対して行った贈与に関しては「生前贈与加算」が適用され、相続税の課税対象とされてきました。この生前贈与加算の適用期間が今回の改正によって7年以内に延長されます。被相続人が亡くなる4~7年前の贈与財産に対しては総額100万円を控除した全額、亡くなる3年前までの贈与財産に対しては従来どおり全額が加算されることになります。ただし、経過措置として2030年12月までは、相続発生時期によって生前贈与加算対象期間を順次3年から7年まで増やしていくことにするようです。
この7年前までの生前贈与加算は、今まで簡易な相続税対策としてよく使われてきた暦年贈与にも適用されます。

暦年贈与とは

暦年贈与とは、1月1日から12月31日までの1年間(暦年)で、贈与額が110万円以下ならば贈与税がかからないというしくみを用いた贈与方法のことをいいます。非課税で毎年110万円の財産を移せることから、相続税対策として有効で、対象は110万円以下ならば現金だけでなく、土地や建物も含まれます。
ただし、生前贈与加算の対象とならない贈与財産もあります。

加算しないでよい贈与財産

  • 20年以上婚姻期間のある配偶者に対する住宅用資産の贈与で2000万円以下の部分
  • 住宅取得等資金のうち、非課税の適用を受けた金額(2023年12月末日まで)
  • 一括贈与を受けた教育資金のうち、非課税の適用を受けた金額※(2026年3月31日まで)
  • 一括贈与を受けた結婚・子育て資金のうち、非課税の適用を受けた金額※(2025年3月31日まで)
    ※非課税の適用を受けた金額のうち、贈与者死亡時の未使用残額については、相続等により取得したものとみなして、相続税の課税価格に加算される場合があります。

加算対象者

『相続または遺贈により財産を取得した人』とされています。相続人ではない孫や曾孫に対する贈与は、原則として適用されません。

相続時精算課税制度の改正

相続時精算課税制度とは、この制度を選択することによって、2500万円までの贈与に対する贈与税は非課税となりますが、贈与者が亡くなった時には、贈与を受けた財産は全て相続財産に加算して相続税を計算する制度です。この制度は、一度選択した場合には、贈与を受けたのが何年前でもさかのぼって加算されることになります。
相続時精算課税を選択できるのは次の場合です。

  • 「相続時精算課税選択届出書」を贈与税の申告書に添付して税務署に提出
  • 財産を贈与した人(贈与者)→60歳以上の父母または祖父母(住宅取得等資金の贈与の場合には特例があります。)
  • 財産の贈与を受けた人(受贈者)→18歳以上の者のうち、贈与者の直系卑属(子や孫など)である推定相続人

改正前の相続時精算課税制度

相続時精算課税を選択した後は、2500万円までの贈与は非課税で、2500万円を超えた分には税率20%の贈与税がかかります(この贈与税は相続時に精算されます)。この制度を一度選択すると、暦年贈与の適用はできません。

改正後の相続時精算課税制度

改正後は、相続時精算課税制度を選択した後も、110万円の贈与税の基礎控除を受けることができます。しかも、この控除された110万円分に対しては、生前贈与加算も適用されません。110万円以下の贈与なら申告も不要となります。ただし、暦年贈与課税の選択に戻れないことは改正前と同じです。

今回の改正には相続税と贈与税の一本化という考えがあると言われています。相続時精算課税の方が相続対策に有利とも思われますが、資産家にとっては、贈与金額310万円までであれば、贈与税の税率は10%と低いため、暦年贈与で基礎控除を受けたうえで超過分について少額の贈与税を払い続けながら贈与したほうが、将来、高額な相続税を課されるより得な場合もあります。他にも自宅を相続時精算課税制度により贈与を受けた場合には、その時点の評価額がそのまま相続額となり、相続時に小規模宅地の評価減の制度が使えなくなるので、この点も慎重な検討が必要になります。

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